第二十七章  武蔵・伊賀

浪速のにっぽんばしで 腹ごしらえをした 武蔵と日吉は 東海道に入らずに

伊賀上野に 通ずる裏街道に入った

伊賀上野は 忍者の里だ

今は 飛ぶ鳥を落とす勢いの柳生の里も 伊賀の側だ また甲賀の里も近くだ

武蔵は 日吉に 聞いてみた

忍者の里は どうして この辺りに 集中しているのかと

日吉は 憂鬱な表情で 静かに話し出した

実は わしが天下人の時に 山城の地の豪族である秦一族の中に服部家というのが

あった みんな 物部一族の由緒ある末裔だ その中で服部一族は

特殊な役割を果たしていた それは 諜報活動だった

秦一族は遠い西の国からやってきた渡来人だ 異国の地に

住みつく国を持たない 渡り鳥民族だから

諜報活動が生きるか死ぬかを決定づける大事な役割だった

彼らをいつしか忍者と呼ぶようになった

その服部一族に 石川五右衛門という はみ出し者がいた

この男が 盗みをやるので 捕らえて釜湯での刑にした そして服部一族も

いもずるの罪で山城から この伊賀の地に封印したのだ

その伊賀の服部一族が 徳川のお庭番となって わしの一族を滅ぼしたのじゃ

武蔵は 更に聞いた

そんなに 服部一族は 武芸に秀でているのか

それは ひとえに 諜報活動の賜物だ 孫子の兵法にある 人を知り 己を知れば

百戦危うべからず その人を知るのが 諜報活動だ

武蔵も 今までの決闘で その大事さは 充分知っていた

関心を持った 武蔵は 伊賀の里に行ってみたくなった

日吉は こう言った

今 伊賀には 服部半蔵という 頭領がいて この男が お前さんを いつも

見張っているらしい 今でも その辺りに潜んでこちらを見ているかも知れない

それなら 虎穴に入らずんば 虎児を得ず 伊賀に行きましょう

ためらう 日吉を引き連れ 武蔵は 伊賀の里にむかった