第二十六章  武蔵・赤まむし

浪速のにっぽんばしは ドブ川流れる 乞食の巣窟だ

江戸のにほんばしは 清水流れる 大棚のあこがれの場所だ

日吉が 天下を握っていたころは 江戸は 赤土の武蔵野だった

それが 今では 正反対 

武蔵は 日吉に 尋ねた 大坂の 守護代は 何をしているのかと

大坂の 守護代は 立派に 責任を果たしている 江戸の幕府のために

浪速の没落は 江戸の繁栄 双方立つことは 不可能だ

ふたりは 大坂城に 一路向かうことにした

その前に にっぽんばしで 腹ごしらえをしようと まむしの店に入った

うなぎのことを 浪速では まむしと言う

武蔵は この まむし 一言で 浪速を気に入った

店の主人に なぜ うなぎのことを まむしと言う

主人は うなぎと まむしは 大きさかたちが そっくりだからと 答えた

武蔵は 更に 主人に尋ねた

まむしは 毒蛇 似ているからと言って わざわざ まむしにするは 合点が行かぬ

主人は 笑って 武蔵に言った

お客はんは まだ青いでんな はよう赤くならんと えらい剣客には なれまへん

まむしは 毒もあるが 赤く熟した 大人の蛇 青大将のような

がらだけ大きく人間の住む家に 居候することは 絶対にしまへん

浪速のもんは みな自分のことは 自分でやりまっせ お上に

おんぶにだっこのような 江戸はんとは 筋がねが違いまっせ

武蔵は なるほどと 大いに納得した

主人は 更に続けた

そこに いなはる老人は 日吉さんでっしゃろ このお人が

浪速をつくってくれはった 偉いお人や まだ生きてはりましたんか

武蔵と日吉は お互い 顔を見合わせ 店の主人が みんな お見通しなのに驚いた

武蔵は さっそく 白隠和尚からもらった巻物を 開いてみた

そこには 赤まむしの忠兵衛と 書いてあった