第十九章  船頭と武蔵

大井川 の渡しで 武蔵は 船を待っていた

渡し船が 向こう岸から 着いて みんなが 船に乗ろうとした

一艘の船で 10人しか 載せられない

待っていたのは 11人だった

武蔵は 自分が乗らずに 次を待つと言った

そしたら 船頭が 武蔵に おさむらいさん お先に 乗んなさい と言った

誰かが ひとり あぶれ出る

お互いに 下を向きながら すわっていると

船頭が 武蔵に 言った

おさむらいさん あっしが 船の外でおりやすから 漕いでくれやせんか

武蔵は 船頭の 機転の良さに感心して 自分が漕ぐことにした

漕いでいる武蔵を 川水につかりながら 裸の船頭が 嬉しそうに 話しかけた

おさむらいさんは 宮本の武蔵さん て言う名でしょう

武蔵は 驚いて 船の櫂を止めた

船頭は 櫂を掴んで 武蔵に言った

これと 同じ櫂で 小次郎を 破りなすったんですかい

武蔵は その瞬間 やわらかい殺気を 感じた

茶店の主人に負けた 武蔵は ここで こやつも 白隠の と考えた

船頭は 笑いながら 櫂を離して 向こう岸に 先に泳いで行った

武蔵は 何かを 察して 心の準備をしていた

向こう岸に着くと 船頭が 裸で 武蔵に寄ってきた

一瞬の殺気に 武蔵は 櫂を持ったままで 退いた

船頭が 武蔵に 言った

おさむらいさん 櫂を持っていかれたら あっしの商売は あがったりですよ

おさむらいさんが 刀を 取られたと同じじゃないですか

同じことを 二回もするもんじゃ ねえですぜ

武蔵は 船頭に 頭を下げて 立ち去った