第十五章  技より力の武蔵

松蔭寺は 駿府第一の寺 駿府は将軍家直轄の地

白隠和尚は 公望さまの御意見番

ある日 公望様が大目付けの柳生但馬守を引き連れて 松蔭寺にやってきた

公望様が武蔵の姿を見て 白隠に あれは誰かと聞いた

剣の道一本に精進する 剣客だと 和尚は答えた

但馬守とどちらが強いかと 公望様は尋ねた

さあ どちらが強いかは 勝負してみないと判りませんと 和尚は答えた

公望様は 但馬守に立ち会うようにと命令した

武蔵が呼び出されて 但馬守の前に引き出された

武蔵としては相手に不足はない

お互いに 木刀を持って立ち会った

武蔵は突然 但馬守の木刀を下段から跳ね上げた

但馬守の木刀は空高く舞い上がった

その木刀が落ちてくるよりも速く武蔵は 大上段から但馬守の頭めがけて木刀を打ち下ろした

但馬守はそこで 真剣白羽取りを披露した

武蔵の打ち下ろした木刀が 但馬守の両手で挟まれて 但馬守の頭上で止まっている

そこで武蔵は にたっと 笑って その木刀を力まかせに打ち下ろした

両手に挟めれていた木刀は 但馬守の両手をずり落ちて 但馬守の頭上で止まった

公望様はどちらが勝ったのか判らない

そこで 和尚が こう言った

剣術においては 但馬守様の勝ち

殺し合いにおいては 武蔵の勝ち

そこで 公望様は 和尚に聞いた

剣術と 殺し合いと どう違うのか

和尚は 答えた

はい 何にも変わりません

帰り間際に 但馬守が 武蔵に尋ねた

あそこで 木刀を止められたか と

武蔵は 答えて言った

木刀だから止まったが 真剣なら止まっていなかったでしょう と

それを聞いた 但馬守は 黙って公望様と江戸に帰った

その後 但馬守は お役ご免を申しいれた