第十章  蝿と武蔵

ふたりは 向かい合って 夕食をとっていた

そこへ はいが一匹飛んできた  

武蔵が 箸でそのはいを掴まえて 前の囲炉裏の火の中に捨てた

もう一匹のはいがまた飛んできた

今度は 白隠が 箸でそのはいを掴まえて 障子を開けて外に出してやった

また 無言で ふたりは 夕食を続けた

その夜 武蔵は 一睡もせずに 庭先で剣の鍛錬をしたという

あくる朝 白隠は 夕べは 一晩 どうしたのかと尋ねたら

和尚が 逃してやった はいを一晩中待っていたと言う

そして はいは 来たかと尋ねると 

いえ はいは とうとう現れなかったと武蔵が言うと

この勝負 はいの勝ちじゃな

武蔵は はいと答えた