影武者の英雄

影武者にとっての最大要件は、言葉を決して発しないことだが、影武者の本来性からして、権力の権化が言葉を発しないのは至難のわざである。
坂本龍馬はその境界線を越えたゆえ、暗殺された。
一方、
陸奥宗光は境界線を越えないでやってきたから、暗殺されず大往生できたのである。
無病息災と一病息災という二つの格言があるが、まさに、これらの格言は、坂本龍馬と陸奥宗光のためにあると言っても過言ではない。
そして、
無病息災の坂本龍馬の最期は暗殺され、一病息災の陸奥宗光は大往生した。
だが、
歴史は暗殺された坂本龍馬を英雄にし、大往生した陸奥宗光を大した評価をしなかった。
ここに真理の裏返しがある。
裏返し現象と言い換えてもいいかもしれない。
なぜなら、
歴史には常に(if)がつきまとうから。
そして、
歴史の(if)は、常に、歴史の裏舞台で活躍する人物次第なのである。
畢竟、
表舞台の歴史の(if)は、裏舞台の歴史の必然に他ならなくなり、それが歴史の真相となり表舞台から一切隔離される。
実像と虚像は、真相を逆さまにする。
坂本龍馬が実像であり、陸奥宗光が虚像なのである。
だが、
陸奥宗光が実像であり、坂本龍馬は虚像なのである。
そして、
ここから英雄の影武者の歴史がはじまる。