第十二章 前世のテンシ

月の「想い」であるテンシが、地球の「想い」であるカミに先んじて地球に降り立ったことがある。
優柔不断なカミと違って、火星の「想い」であるイクサに似た激しい性格のテンシは、自分の親であるカミが、地球上を荒らしまくっている極悪非道の人類のお仕置きを決断できないことに地団駄を踏んでいたのがきっかけだった。
その頃の地球では、人間社会で悪辣な犯罪が蔓延り、その根底には制御不可能になった性エネルギーの誤用による性欲の突きあげが潜んでいた。
犯罪に手を染めていた中心が、新大陸へ移植されたアフリカ黒人の奴隷の子孫たちであり、彼らの犯罪を躍起になって取り締まろうとしているのが、ヨーロッパから新大陸にアフリカ黒人を奴隷として連れてきた連中の子孫である。
過去においての犠牲者であるアフリカ黒人であっても、犯罪に身を染めるとそれに対する罰を与えられるのが地球の法則である。
被害を受けた犠牲者の心は傷つき、正常な精神を保つのが難しくなり、犯罪の道に入ってしまうのは心情的に理解できても、宇宙の法則はそういったことを一切考慮に入れてくれない。
犠牲者になった人間が全員犯罪者になることはない。
苦しい中で真面目に生きている人間もいるから、やはり悪いことをしたら罰を受けるのが当然であるが、人間という動物はどこまで心根が屈折してしまったのか、犠牲者になった人間が今度は加害者になって前の加害者やその家族を責める。
斯様なことが、人間個人レベルに止まらず、組織、国家間でも為されている。それでは際限がない。どこかで歯止めをかけなければならない。
歯止めの切り札は、自分を責めても、他人を責めないことだ。
人間が人間を裁いてはいけない。裁けば必ず裁かれる。
このことを理解していない人間はますます罪を重ね、止まることを知らない。
過去のアフリカ黒人は悲惨な経験を確かにしている。
峻烈な差別は今すぐにでも解消されなければならないが、だからと言って罪を犯している黒人は罰せられないという屁理屈は通らない。
現代のアフリカでタチの悪い病気が蔓延しているのがその証拠だ。
エイズという体の抵抗力を奪う病気だが、もともとはアメリカで発生したらしいが、それが全世界に蔓延して、ますます猛威をふるっている。
そして今アフリカで爆発的な拡がりをみせている。
理屈の通らない話だ。
文明の一番進んだアメリカで発生した病気が、文明の遅れた国に拡がっているのは解せない話だ。
伝染病は人間の移動の多いところへと移っていくものだから、先進国間で蔓延するのは理屈で分かるが、先進国の人間が未開発の国への移動は極めて少ないのに、その未開発の地域で拡がっている。
伝染予防の知識や技術度の問題もあるが、それだけでは合点がいかない程の凄まじい汚染度である。
因果関係がきっとある。
地球に先に降り立った月の「想い」であるテンシが何かしでかしたのかもしれない。
地球の臍である日本に原爆を落とす罠を仕掛けたのがテンシであったように、今回もそんな気がしてならない。
地球の「想い」であるカミがテンシと親子喧嘩してから凡そ100年後、テンシはカミに黙って、この地球上に降臨した。
地球の臍である日本にアメリカを使って原爆を落とさせたのもテンシのしかけた罠であり、まさにテンシの発想である。
そこがテンシの恐るべき残酷さなのである。
極悪非道をした人間にもっと大きな罪を、その犠牲者に向かってやらせる。
これほどむごい仕打ちはなく、このような発想は人間では到底できないのである。
“罪を犯したものは必ず倍の仕返しを受ける”という法則を知っていないとこんなことはできない。
日本に原爆を落とす約50年前にテンシは地球に降りてきていたのだ。
テンシが地球に降りてきたタイミングは絶妙なものだった。
ヨーロッパ諸国の各王朝がアフリカ・アジアの国を侵略し尽くしたあとの退廃がピークにきた時期であった。
外国に目を向けていた国民が自分たちの国の王朝に疑問を持ちはじめたのである。
厳寒の国・ロシアのロマノフ王朝はヨーロッパ諸国の王朝の中では一番遅れて生まれた。
ピヨートル大帝までは良かったが、余りにも厳しい気候が国民の間に大きな格差を生み、その王朝の滅亡を早めた。
不幸中の幸いか、遡ること100年前にフランスで革命が起きた。
この革命はヨーロッパのすべての王朝に対する挑戦だった。
革命のリーダーシップを獲ったのは明らかにテンシの仕業だと断言できるだろう。
フランス革命によってロシア革命が決定的となった。
ロシア革命による共産主義国家が出現していなかったとしても、ロシアの代わりにフランスが共産主義革命を起こしたことは間違いない。
レーニンの代わりにフランスの英雄が革命の指導者になっていただけのことである。
ふたつの革命は明らかに仕掛けられていたのだ。
十九世紀末にロシアで世界を転覆する会議が秘密裏に開かれていた。
今後100年間、200年間に確実に起こり得ることを偶然に見せかけるためのシナリオを書きあげるためである。
ふたつの革命もそのシナリオ通りに為されただけであり、背後にテンシの姿が見え隠れしていた。
テンシが最初に人間に対して激怒したのが、黒人奴隷のエルミナ城のときだった。
テンシは、地球の「想い」であるカミに、ヨーロッパの王朝支配者を一気に処罰すべしと主張した。
テンシは独りで地球に降り立った。
フランス革命、ロシア革命の後に第一次世界大戦。
人間の歴史では世界大戦と呼ばれているが、一体どこが世界大戦なのか。
誰かが世界大戦と世界に思わせたかったからである。
スペイン、ポルトガル、オランダが覇権主義の先陣を切っていた時、帝国覇権主義に出遅れたドイツ・オーストリア帝国のハプスブルグ家はスペイン・ポルトガルを支配し、オランダとも姻戚関係にあった。
イギリスのビクトリア王朝やフランスのブルボン王朝に先を行かれると困ると思った彼らが、セルビアのサラエボで皇太子が暗殺されたのをきっかけに第一次世界大戦を始めたと喧伝されているが、飽くまで表面的な理由であり、帝国主義の覇権争いに過ぎない局地戦争だったことは明白である。
ここにも何か意図的なものを感じざるを得ない。
更に世界大恐慌が起こる。
ある人間たちの意図がはっきりしているようだ。
照らし合わせたように、イギリスに取って代わってアメリカが世界の覇権主義に台頭してきた。
これらすべての事件が偶然どころか、完全に意図的に仕組まれたものであることは明白である。
意図的に仕組まれたものなら、何らかの目的があるはずだ。
テンシが背後で糸を引いているなら、この一連の出来事の狙いは、人種差別をし、帝国主義植民地政策を展開していった欧米諸国に対する最終的審判であろう。
欧米白人社会による世界制覇の継続が目的なら、有色人種国家の台頭に対する牽制であろうが、余りにも手がこみ過ぎている。
テンシの差し金だと断定せざるを得ない。
テンシが地球に降りてから、地球はまさに殺戮の地獄絵となってきた。
この100年間で1億を超える人間が同じ人間に殺された。
この1億を超える人間の死骸を並べると地球を5周もするのである。
地球の生態がおかしくなる。
有機生命体は精巧にできたものだが、死んだときが問題である。
無機物質にも死があるが、分解されるのに相当な時間が掛かるため、地球環境にあまり影響は与えない。
特に放射性物質などは何十年、何百年もかかって分解していく。
一方、有機物質はその機能が停止すると、すぐに分解してしまうから処理に困る。
人間以外の生命体は、生と死のバランスを自然がコントロールしている、つまり、リサイクルされてバランスがとれているが、人間の場合は排泄量が多すぎてリサイクルする余裕がない上に、死骸がこれだけ一気に出ればもう地球はゴミ捨て場になってしまう。
人間という動物だけが同じ仲間を平気でこれだけ殺すことができるらしい。
地球の48個の法則が96個のプラス・マイナスの法則に分化すると、人間のようなマイナスのマイナスの事象の生き物が生じる。
人類という動物は地球の有機生命体であるが、人間というものは地球の子である月の有機生命体、いやひょっとして無機生命体であるかも知れない。
テンシは、自分の肉体である月に未来住む予定の人間を地球上に創っていたのかもしれない。
人間は地球に住むべき有機生命体でなく、テンシの肉体である月に住むべき無機生命体であったとするならば、人間がすでに一度自分の力で月に行っているにもかかわらず、その後一向に月に行こうとしないのは、まだ自分たちの住む場所になっていないと判断して地球に居座っているのかもしれない。
月の「想い」であるテンシだが、前世のテンシと今世のテンシの折り合いが、二十一世紀最大の地球問題になることは必定だ。