(その九)長男の存在

倫子は堰を切ったように、喋りはじめた。
「恵美子は、あの子のお婆はんの血を濃く受け継いでいるんどす・・・・」
鹿ヶ谷哲夫に向かって話をはじめたが、彼女の視線は藤堂頼賢に絞られていた。
「同じ兄妹でも、体型も性格もほんまに違ってて、あの娘は聡よりも、長男の亨の方によう似てるんどす・・・」
「藤堂はんは、聡の兄の亨に会うたことおへんか?」
聡の上にもう一人兄がいる程度のことしか恵美子から聞いていなかった藤堂頼賢は、頷くことで返事をした。
「亨にお会いになりはったら、恵美子のこともっとようおわかりになりおしたどすえ・・・」
倫子が何を云わんとしているのか、その主旨が藤堂頼賢には理解できないでいたが、鹿ヶ谷哲夫には、倫子の意図がよく把握されていた。
「君の性格と、恵美子さんの性格は正反対だろう・・・?」
救いの舟をせっかく出してくれた鹿ヶ谷哲夫の甲斐もなく、藤堂頼賢の頭の中は蜘蛛の巣に支配されていた。
彼の直列型思考所以である。
並列型思考の人間の考え方は、直列型思考の人間にとっては、優柔不断以外の何者でもない。
「そういうことですか!」
藤堂頼賢の曇った表情に若干の晴間が見えてきた。
「恵美子さんと結婚したいのですが・・・」
敢えて言い直した彼の表情を察知した倫子も、安堵の表情になっていった。
「ところで、恵美子さんはいま何処におられるんですか?」
鹿ヶ谷哲夫が訊ねた。
「・・・・・・・・・・・」
再び、倫子の表情が曇った。