(その九)猫のエゴ

二人の鬩ぎ合いを静観していた鹿ヶ谷哲夫がタイミングをうまく見計らって中に入った。
「他人の家に土足で踏み込むのも、そこそこにしたらどうかね?」
藤堂頼賢は、鹿ヶ谷哲夫の言葉の意味するところをすぐに察したが、倫子は表面の意味でしか捉えられなかった。
「えらい、すんまへん!」
「勝手に押しかけて、こんな醜態をお見せして・・・」
鹿ヶ谷哲夫は倫子のそんな態度に惻隠の情を示して、ある話を始めた。
「猫というやつは、エゴの強い生きもので、飼い主といえどもなかなか自分の本性を見せない・・・」
藤堂頼賢は以前この話を立命館大学の哲学科の授業で聞いたことがあったのを思い出した。
「飼っている猫があまりにも自我意識が強いことに辟易とした飼い主が、猫を捨てるのだが、何回捨てても、家に戻ってくる」
倫子は豆鉄砲を食らった鳩のような目をしている。
「そこで、飼い主は郊外にある森の奥深くまで行き、そこで、猫を捨てて家路に就こうとしたのだが、森の迷路に入り込んでしまった」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そこで、鹿ヶ谷哲夫は話を止めてしまった。
倫子の出方を待つためである。
鹿ヶ谷哲夫は藤堂頼賢の性格を熟知している。
視線を藤堂頼賢の方に向けて、何かを促した。
「待っておくれやす!」
倫子が切り出した。