(その九)鬩ぎ合い

「あなたは、実は僕の母なんでしょう?」
やはり、藤堂頼賢は攻撃型だった。
今度は藤堂頼賢の方から強烈なクロスカウンターを繰り出してきたのである。
しかし、倫子は防御型だった。
クロスカウンターに対する防御策は一つしかない。
倫子からも逆腕のクロスカウンターを繰り出すしかないのだ。
「あなたのお父上が、そう言いはったんどすか?」
倫子が敵のアキレス腱を知っていたのかどうかは、定かでないが、彼女の逆クロスカウンターは、藤堂頼賢のアキレス腱にヒットしたが、当の倫子が内心逆上するぐらい感動していたが、その理由(わけ)がわからないのである。
アキレス腱は時には切り札にもなり得る典型が、この時の藤堂頼賢の心の中を漂った。
たとえ、自分の父親であっても、しょせんは、自分ではない、つまり、他人である。
他人のことをとやかく言えないのが、藤堂頼賢のアキレス腱でもあり、切り札であった。
さすがの藤堂頼賢も精々、ボディーブローを打つしかなかった。
「畑聡は、春若の本当の兄なんですか?」
じわじわと敵の懐に食い込んでくる老獪さを発揮する青年に、おたおたするわけにいかない。
「ええ、間違いおへん」
ぐずぐず繰り出す返事はたかがしれているが、簡潔明瞭な返事の方が怖いことは、藤堂頼賢の喧嘩歴が十分過ぎるほど教えていた。
「・・・ということは、双子の姉弟か兄妹ということになりますね?」
止めを刺すのは、大胆不敵にならないとできないことも、藤堂頼賢の喧嘩歴が十分過ぎるほど教えていた。
両者がじわじわとその距離を縮めてくる。
好敵手同士の戦いでないと起こり得ない感覚が、倫子にも藤堂頼賢にも感じられた。
そして、やはり、止めが功を奏した。
「あんたはんには、負けおしたわ!」
『恵美子もこうして陥落させられたんやろな・・・』
二人の間の時の流れは自然に穏やかになって行ったが、藤堂頼賢はただ黙っていた。