(その九)藤堂姓の縁

藤堂頼賢は鹿ヶ谷哲夫に促されて部屋に入ると、倫子が背中を見せて座っていた。
彼女の背中から醸しだすオーラが藤堂頼賢を刺す。
男気の強い藤堂頼賢でさえも、倫子のオーラが発する電磁波に後ずさりしそうになった。
無言のままで、藤堂頼賢は倫子の横を通って、床の間を背にして座っている鹿ヶ谷哲夫の左側に垂直に座った。
左側60度の角度で、はじめて倫子の姿を確認した藤堂頼賢は内心で仰天した。
『恵美子そっくりや!』
顔立ちが恵美子そっくりだけではなく、恵美子自身だと勘違いしても不思議でないくらい倫子は若く見える。
倫子の顔の表情から訴えるものがあるのだが、彼女から決して口を開かなかった。
それが先斗町の芸者の誇りでもあった。
況してや、京全体でも数少ない従五位太夫にまで登りつめた倫子である。
主人の鹿ヶ谷哲夫が口を開くのを待っているのである。
「花若太夫。彼が藤堂頼賢君です」
鹿ヶ谷哲夫の紹介に呼応してそつなく相槌を打つ藤堂頼賢に、倫子は不気味さを感じた。
『これが恵美子と同い年のお人かいな?』
自分が発する番であることを重々承知の倫子だったが、彼女は敢えて藤堂頼賢の出方を待っていた。
鹿ヶ谷哲夫は倫子の方に視線を向けている。
倫子を促しているのだ。
だが、倫子は沈黙を保った。
「はじめまして。藤堂頼賢です」
「・・・・・・・・・・・・・」
目に見えない熱い視線が火花を散らしている。
「春若を身受けしたいのですが・・・」
藤堂頼賢が遂に口火を切った。
「うちを恵美子の母親と承知しての申し入れどすか?」
「それとも、春若の女将と知っての申し入れどすか?」
自分で啖呵を切りながら、倫子は中村屋での藤堂高順とのやり取りを思い出していた。