(その八)謎の女

奥廊下の向こう端に立つ増絵の姿と藤堂頼賢の姿がラップしたのである。
そして、彼女の追憶はこの時点で停止した。
『女将さんが何で?』
それまでまったく疑問に思わなかったのが不思議であった。
今まで何の疑惑も持たなかった輪違屋の女将、増絵の存在にはじめて、恵美子は気がついた。
『そういえば、うちの身体の異変に気づいたのも女将さんやったわ!?』
『そのことを、お母はんに言いつけはったのも女将さんやったわ!?』
『お母はんと女将さんの関係はいったいどうなってはんねんやろ!?』
考えれば考えるほど、新たな疑問が次から次へと湧いてくる。
『そういえば、お母はんとお父はんがはじめて結ばれたのは、中村屋ではのうて、輪違屋やったわ!?』
『そういえば、女将さんを、お母はんと呼んでたわ!?』
京都の花街では、置屋の女将のことを、舞妓や芸妓は「お母はん」と呼んでいる。
京都の花街の中の一つに過ぎない祇園だけは、日本全国ありとあらゆるところに点在する。
・・祇園、・・祇園、・・祇園といった具合にである。
・・銀座、・・銀座、・・銀座といった具合と酷似している。
恵美子は、この疑問を解く知性をまだ持ち併せていなかった。
だが、藤堂頼賢にはそれがあった。
霧と花の間の鼎の懐に向かっているふたりの日本人の若者が同時に気づいた瞬間だった。