(その七)懺悔の念

映像の中でふたりは別れた。
実在の中でふたりは分れた。
その接点にあるのが、六波羅通りと東山通りの交差点である清水口である。
藤堂頼賢と別れた恵美子は、久しぶりに実家に戻った。
映像の世界では、今朝早く東山の実家から先斗町の歌舞練場に移動したのだから、24時間以内の上映時間に過ぎないのだが、実在の世界では、榊原温泉から帰京して以来なのである。
「ただいま、帰りました」
恵美子は意識的に云った。
誰が真っ先に顔を出すか興味津々だったからだ。
「よお、お帰りやす!」
父の正三が玄関まで出てきたが、態度は余所余所しい。
心の内で恵美子は構えた。
「お父はん。今日はわざわざご苦労さんどした」
鴨川をどりを観劇に来てくれた礼のつもりで言ったのだが、途中で飛び出したことを失念していた恵美子は、その後の歌舞練場で起こったことを知るべくもなかったのは云うまでもない。
「あの後、一体どうしたんや?」
正三の方から恵美子に逆に訊いてきたため、機先を制された彼女は、次の言葉を捜すのに躍起になるだけで、頭は真空状態に陥ってしまった。
「藤堂はんと、六波羅で逢うてました・・・」
こんな時は、無手勝流に身を任せるしか道はない。
二十歳をほんの過ぎた女では土台無理な注文なのだが、そこは公私共に年齢を遥に凌ぐ経験がモノを言う。
いわゆる、居直りである。
「藤堂?」
正三の表情が一気に曇った。
『藤堂はんが云うてた通りやわ!』
「藤堂はんの死に顔を見に行ったんどす・・・」
「死に顔?」
曇った表情に群青みが増す。
「乗り込みはった泉涌寺で、藤堂はんは何者かに殺されはったんどす・・・」
恵美子は表情の変化を見逃すまいと正三の顔を凝視し続けた。
恵美子の露骨なまでの凝視に気取られまいと必死に隠そうとする正三だったが、知識と身体の記憶のパワーは月とスッポンほどの差があるため、正三は裸の王様になっていた。
「お父はん!あんたは一体何者なんどすか?」
父親に対してはじめて「あんた」と言った恵美子は、感激と懺悔の織り成す想いの中で漂うのであった。
恵美子の執念にも似た恫喝に観念したのか、正三はぼつぼつと語り始めたのである。