(その七)烙印の地獄

恵美子には子供の頃からの夢があった。
パリで暮らすことだ。
理由はわからないが、なぜかパリなのだ。
しかも、パリの郊外でワインをつくる仕事をしたかったのだ。
その理由も本人はわからない。
生れた時からのDNAに摺り込まれていたとしか考えられない。
「俺はこれからパリに行かなあかんわ!」
「俺と一緒に来てくれへんか?」
藤堂頼賢からこう言われたら、即座に首を縦に振っただろう。
しかし、その夢を阻んだのが、祇園の伝統である。
中学生までの彼女はこの夢を持っていたが、高校生に進学する時に親から烙印を押されて、夢は無残にも壊された。
子供に親が烙印を押す。
これほど罪の重いものはない。
原爆を発明する罪よりも、原爆を落とす罪よりも、子供に烙印を押す親の罪の方が遥かに重い。
烙印を押された子供だから、罪意識なく原爆を発明し、原爆を落とすことができるからだ。
烙印を押されず、自然児のままで育った子供が大人になったら、原爆を発明したり、原爆を落とすようなことは自分の生命を賭けても絶対にしないだろう。
恵美子もご多分に洩れず親から烙印を押された。
特に、父親の正三の烙印意識は常軌を逸していた。
今まで意識したこともなかった親による烙印意識が、恵美子の頭に擡げさせるきっかけを藤堂頼賢はしていたのである。