(その六)盟主登場

世界の盟主たるものは、武力や金力ではなく、あらゆる国の歴史を抜き超えた、最も古く、また、最も尊い家柄でなくてはならぬ。
世界の文化はアジアに始まってアジアに帰る。
それはアジアの高峰、日本に立ち戻らねばならない。
そんな折も折、第百二十六代天皇になるべき徳仁皇太子が2668年続いた万世一系の天皇家の終焉を決意した。
そして、武力も金力も超えた世界の盟主たるものが登場するというわけである。
そんな折も折、20世紀世界を席捲したパクスアメリカーナの主人公、アメリカ合衆国に激震が走った。
世界大恐慌の兆候がニューヨークから発信されたのである。
1929年に同じくニューヨークから発信された大恐慌は、パクスブリタニカからパクスアメリカーナへの移行のファンファーレだったが、2008年の今年に同じくニューヨークから発信された大恐慌は、パクスアメリカーナからパクスシノアへの移行のファンファーレなのかと、世界の目は極東アジアへ絞られたのも、アインシュタインのあのメッセージの所為なのだろうか。
“其の時、人類はまことの平和を求めて、世界的な盟主を崇めなければならない。
この世界の盟主たるものは、武力や金力ではなく、あらゆる国の歴史を抜き超えた、最も古く、また、最も尊い家柄でなくてはならぬ。
世界の文化はアジアに始まってアジアに帰る”
そんな折も折、先斗町歌舞練場での「鴨川をどり」の舞踊劇「日本誕生」も終幕を告げようとしていた。
観客席にいた畑正三が舞台の上にその容姿を現わし、彼の横には天宇受女(アメノウズメ)を演じた倫子が添っている。
その瞬間、舞台袖でことの一部始終を見ていた恵美子の胸に収めていた携帯電話の振動がした。
『藤堂はんからやわ!』
「舞台に立ってる間も携帯電話を持っとくようにしいや!」
藤堂頼賢が泉涌寺に乗り込むことを恵美子に伝えた時に指示しておいたからである。
「もしもし、藤堂はん?」
「畑正三は今何処におるんや?」
怒鳴り声だった。
「お父はんやったら、今舞台に上がってきはったどす・・・」
「あいつは、お前のお父ちゃんやあらへんで・・・」
「ええ、なんどすって?」
携帯電話はそこで切れてしまった。
「藤堂はん!?」
恵美子の叫び声ももう相手には届かなかった。