(その六)復讐の剣

草薙の剣を事前にチェックしておいた方がよいと、鹿ヶ谷哲夫から忠告されたにも拘わらず、綾子から届けられた草薙の剣の入った箱を開けずにいたことを恵美子は思い出した。
思い出したと言うより、避けていたと言った方が正しいだろう。
何か予感がしたのである。
それが、嫌な予感なのかどうか定かではないが、直感的に避けずにはいられなかったのである。
「鴨川をどり」で最も観衆から期待されている野点の宴が催されている最中に恵美子は、草薙の剣の入った箱を開けてみた。
綾子から送られてきた箱を何気なく受け取ったまま、放置してあったことを、その瞬間後悔した上に、更に、その中味を見ることで、全身に衝撃が走ったのである。
箱の中の代物はおよそ剣とは言い難い形のものだったからだ。
『こんな変な形をした剣なんて見たこともないわ!』
箱の中には、綾子からの一通の手紙が認めてあった。
『畑恵美子様、
この箱の中に入っている剣は紛れもない、熱田神宮に納められてある草薙の剣ですが、「十種(とぐさ)の神宝(かんだから)」の一つである「七支刀(ひしちとう)」とも呼ばれています。
用命2年(西暦587年)秋七月。
大臣(おおおみ)の蘇我馬子は、聖徳太子を旗頭にして、大連(おおむらじ)の物部守屋を滅ぼすための戦を始めました。
蘇我・物部戦争と呼ばれています。
この戦争で物部守屋が守り刀として拝刀していたのがこの「七支刀」です。
「七支刀」は七支燭台を捩った(もじった)もので、「メノーラ」と呼ばれています。
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従って、
物部守屋とは、「出エジプト記」のモーゼをモデルにしていることは間違いありません。
「三種の神器」とはまさしく「出エジプト記」の三種の神器そのものだったのです。
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日本の歴史はすべて作り話だったのです。
どうか、このことを、「日本誕生」の舞踊劇で明らかにしてください。
あなたが生まれてきた意味がここにあったのです。
「日本誕生」の舞台を観るために、ある人物が、私と一緒に行きます。
その時、日本という国がどんでん返しされるでしょう。
                               綾子』

「鴨川をどり」の当日に、天皇家に激震が走った出来事が、綾子が書いてあった日本という国のどんでん返しだったのかも知れない。
綾子の手紙を読んだ恵美子は、自分の出自の本当の意味を知ったような気がした。
『「草薙の剣」とは復讐の剣やったんやわ!』
『深い、もっと深い何かがあるんやわ?』