(その五)双子の兄妹

恵美子は何も言わずに肯くだけだった。
「花若太夫と畑正三は偽装結婚やったんや!」
藤堂頼賢という人間は自然児そのままの真直な性格で今日まで育てられた所為で、すべての物事を単刀直入に対処する。
人間社会では誤解される危険性を持っているが、自然の摂理に沿った考え方、生き方をしているから、最終的には彼の道理が通る。
人間社会といえども自然社会の一部分である証明だ。
単純に考えてみても当然の帰結だ。
自然社会とは地球のことであり、地球という球体の表面でしか人間といえども存在し得ないのだから。
「俺だけが、藤堂の姓を名乗っているが、畑亨も、畑聡も、そして・・・」
恵美子も薄々は気がついていたが、一縷の望みを託していた。
「そやけど、藤堂はんとうちは同い年どすえ!」
「どない考えても、無理どっしゃろ?」
強い口調で言いながら、頭の片隅で一閃の光が流星のように流れ落ちたのを一瞥したのだ。
「ええ、まさか!?」
昭和62年、10月8日。
畑正三は、母親の末の危篤を知らされた。
「あと1週間保てばいいでしょう・・・」
医者から余命1週間の命と宣告された末は、病床に正三を呼んだ。
亨、聡と男の子を産んだ倫子のお腹には男と女の双子が宿っていた。
双子の男の方を藤堂高順に譲り渡すようにという遺言を正三に言い渡すためだった。
末が息を引き取ったのは、それから7ヶ月のことだった。
昭和63年5月10。
畑末は享年80才で他界した。
末が三途の川を渡って此岸から彼岸へ旅立ったその瞬間(とき)、双子の兄・妹が三途の川を渡って彼岸から此岸へ舞い戻ってきたのである。
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマの魂は1週間掛かって三途の川を往復し、新しい命を得た子供に宿って復活するという。
末の魂が三途の川を往復して、此岸の双子の兄・妹に宿って生まれてきたかのようであった。
正三は出産直後の倫子に耳元で囁いた。
「今度は、女の子を頂くことになったよ」
「この女の子は、亡くなった母の生まれ変わりに違いないから・・・」
正三の真剣な表情に倫子は何も言えなかった。
『この双子の子の父親でもないのに、何故?』
倫子は根っからの唯物主義者だ。
『輪廻転生なんてばかばかしい・・・』
しかし、正三の真剣な表情に水を差すことはどうしてもできなかった。
双子の兄妹は、藤堂頼賢と畑恵美子として、その後育っていったのである。