(その三)憎しみから生まれる愛

恵美子は、藤堂頼賢の好きな「黒の舟歌」を思い出した。

男と女のあいだには
ふかくて暗い 河がある
誰も渡れぬ河なれど
エンヤコラ今夜も舟を出す
ROW & ROW
ROW & ROW
ふりかえるな
ROW & ROW

おまえが十九 おれ二十
忘れもしない この河に
二人の星の ひとかけら
ながして泣いた 夜もある
ROW & ROW
ROW & ROW
ふりかえるな
ROW & ROW

あれからいくとせ 漕ぎつづけ
大波小波 ゆれゆられ
極楽見えたこともある
地獄が見えたこともある
ROW & ROW
ROW & ROW
ふりかえるな
ROW & ROW

たとえば男は あほう鳥
たとえば女は わすれ貝
まっかな潮が 満ちるとき
失くしたものを 想い出す
ROW & ROW
ROW & ROW
ふりかえるな
ROW & ROW

おまえとおれとの あいだには
ふかくて暗い河がある
それでもやっぱり 逢いたくて
エンヤコラ今夜も 舟を出す
ROW & ROW
ROW & ROW
ふりかえるな
ROW & ROW

その瞬間(とき)、藤堂頼賢が独り言を呟きはじめた。

季節が大きな背中をあと押しする
男は勇気を奮って愛を告げる
春のそよ風が染まった頬を撫で
女は心の窓を自ら晒し
恍惚の谷間に身を投げる
暗闇の谷間に一閃の光
男の谷間に一条の光
やがて、夏の季節がやってくる

季節が豊かな胸を轢きちぎる
女は身を投げ打ち愛を受ける
夏の夕立がちぎれた胸を押し流し
男は心の窓を自ら晒し
希望の空に身を放つ
輝く空に一閃の光
女の空に一条の光
やがて、秋の季節がやってくる

季節が満ちた心を折り曲げる
二人は命を賭けて愛し合う
秋の時雨が溶け合った二人を見守り
二人は互いの心を曝け出し
充足の海に身を捨てる
輝く海に二本の光
二人の海に二条の光
やがて、冬の季節がやってくる

季節が薄らぐ影にとどめを刺す
人は身を捨て真の愛を知る
冬の木枯らしが真の人を解き放ち
人は自我の心を暴け出し
覚醒の世界に身を任せる
静かな世界に無数の闇
人の世界に無限の闇
やがて、春の季節が還ってくる