(その二)怪物の本領

「春若ねえさん、藤堂はんていう男はんから電話どすえ」
舞妓の美千代が角屋の奥座敷で勤めをしていた恵美子に伝えた。
自分から電話を掛けておきながら、自分だけ言いたいことを言って、自ら受話器を降ろした。
悪循環に陥っている人間に限って自覚がない。
善循環に入っている人間に限って自覚がある。
恵美子は完全に悪循環に陥っていたが、藤堂頼賢の存在が大き過ぎた為に、悪循環に陥っていることを自覚せざるを得なかった。
腹を決めて電話に出ることにした。
「もしもし、恵美子どすけど・・・」
「春若とちゃうんか?」
一切の徒口を叩かない藤堂頼賢が口を開いた。
「いえ、美千代はんが、藤堂頼賢はんからの電話や言うてはったから・・・」
「そうか!・・・・・・・・病院に行く言うとったけど、俺が要るんやったら、いつでも言うてや!それもええし、それでなくてもええで!」
恵美子は胸に詰まった。
「・・・・・・・・・」
「俺の子供である前に、お前の子供やから、お前の決めた通りにしたらええ!」
恵美子は意を決して藤堂頼賢に訊いてみた。
「もしうちが、最初に春若言うてたら、藤堂はんどうしてはりましたやろ?」
女の性が哀しい所以だ。
訊けなくとも訊かざるを得ないのが、哀しい女の性だ。
「どっちでもおんなじや!」
胸に詰まっていた想いが溢れた。
「おおきに!」
「ほんならな!」
『また藤堂はんに救われたわ!』
恵美子は底知れない怪物に感動していた。