(その十七)ほんまの話

八州の大原村で育った畑亨と聡は、倫子と正三が結ばれた時点で、東山の畑家に迎え入れられた。
そして、その年に倫子が双子の兄妹を生み、兄は藤堂家に引き取られ、妹が恵美子と名づけられ、長男の亨、次男の聡、長女の恵美子として育てられていき、3人の子供も、畑家の事実として疑いもなく大人へと成長していくことになる。
長男の亨は同志社大学を卒業して大企業のサラリーマンになり、平凡な人生の道を選んだが、次男の聡は、妹の恵美子を実の妹と信じられず、恋心を抱くようになった。
聡が京都大学を受験する頃から、異変が起りだしたのである。
そのきっかけは、舞妓になった恵美子が16才の夏の日に感じた視線だった。
高校三年生の夏に恵美子の沐浴姿を観て以来、聡は白昼夢を観ていた。
4年間という上映時間の映画を観ていたのである。
映画が終われば、映画の上映時間がわかる。
映画が終わらない限り、映画の上映時間はわからない。
死を知った人間が、自己の死期を知らないのは、上映時間を知らないからだが、映画の上映時間は端からわかっている。
何故なら、映画は再生したものだからだ。
人間の一生は、再生された映画に他ならない。
彼女が縁側で沐浴をしていた時に微かに感じた視線だ。
『あの時、聡兄さんが見てたんや!』
「恵美子!お前が欲しいんや!」
恵美子の身体の上に覆い被さって、聡が叫んだ。
「やめて!聡兄さん!」
「ああああ!」
恵美子は、聡の殺意にも似た視線の正体をやっと知ったのである