(その十六)義弟

倫子の祖父の軍造は、木村化学工業機械社長の木村信三と、丸山一郎の件に就いて内密に会うことにした。
木村化学工業機械は遠心分離機のメーカーで、核燃料であるウラン235をウラン鉱石から抽出する技術力の高さでは世界的に有名な会社である。
「木村さん、丸山一郎という人間は、あなたの会社の社員ですか?」
軍造は木村家のような事業家の出ではなかったが、それぞれの家が広島を出身地とする共通点があった。
宇都宮家は代々広島安芸藩の武士で、明治維新後、山県有朋の下、軍閥を構築していくことで身分を上げていった。
山県有朋は長州藩士で、吉田松陰の松下村塾に学び、高杉晋作の奇兵隊軍監になった後、明治維新政府では徴兵令を制定するなど近代陸軍を創設し、その後、内相、首相を歴任、日清戦争では第一軍司令官、日露戦争では参謀総長、後に、枢密院議長、元老を務め、軍、官界に巨大な派閥をつくり、政界に絶大の権力を振るった人物で、太平洋戦争まで日本という国を軍閥で汚染させた元凶である。
軍の影響力を駆使して収賄三昧の山県有朋が失脚寸前のとき、西郷南州が彼を救ったことが原因で、西郷南州は、後に大久保利通と敵味方で戦わなければならなくなったのである。
内務省の創設者である大久保利通にとって、内務省を賄賂の巣窟にしてしまった山県有朋を許せなかったのである。
宇都宮家はその時、西郷南州の弟の西郷従道にも寵愛されていて、西郷従道は大久保利通に通じていた。
二人の維新の元勲に挟まれた宇都宮家は、最終的には山県有朋に賭けたのである。
爾来、軍造は日露戦争で乃木希典に従いていくことになる。
「ええ、丸山一郎は、わたくしの義弟にあたる男です」
木村の返事に軍造は驚愕して、暫く、次の言葉が出なかった。