(その十六)謎の組織

倫子は、母のハナには内緒で、祖父の軍造に仔細を報告した。
「円山一郎?」
「取引先に木村化学工業機械という会社があるが、そこの社員に円山と云うのがいるが、まさか、あいつが!」
軍造に報告した倫子は、逆鱗に触れることを覚悟していたが、意外にも淡々と話を続ける祖父の姿に明治の人間を思い知らされたような気がした。
軍造に相談して、相手の詳細だけでも判明したことで、倫子も少し落ち着いたが、まだこれから多くの難問が待ち受けているのを、推測するには、余りにも経験がなかった。
増してや、お腹の中に双子、しかも、男と女の二卵性双生児が新しい芽吹きを待っているなど、誰も想像できない。
「倫子!お前はいっさい表に出ないようにしなさい!」
「わたしが、奴の会社のトップと話をつける!」
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「あなたも、花若太夫とまで言われたお方でしょう?」
倫子が四面楚歌という中国の故事を知っていたかどうか定かではないが、項羽が劉邦の軍に囲まれた心境と同じであることは確かだった。
倫子は何も喜んで敵の陣中に乗り込んだのではなかった。
彼女の背後にいた夫の畑正三の意図が働いているから仕方のないことだった。
更に、畑正三の背後には三十三段階の階層を持った謎の目が、倫子をも直接監視しているのである。
「自分の子供を犠牲にしてまで、世界の陰謀の片棒を担がなければならないのですか?」
言ってはいけない台詞を、藤堂頼賢は遂に吐いてしまった。
花若太夫と畑正三の馴れ初めから起こった事が、祇園と先斗町の花街を巻き込みながら、延いては、封印されていた京都御所の謎まで公に晒さなければならない事態に拡大してしまったのである。
倫子の全身が恐怖で震えていた。