(その十六)15才の嵐

丸山一郎との出来事を、倫子は母親のハナにも、祖父の軍造にも告白することができなかった。
彼女の人生における最初の大きな岐路であったことに気づいたのは、それから3年後の京都においてであった。
あの忌まわしい出来事から二ヶ月余りが経った、年の暮も迫ったある日だった。
母のハナと一緒に台所に立っていた時のことであった。
「うぅぅぅ!」
強烈な吐き気を催したのである。
娘のちょっとした変化を逃さないのが、産んだ母親の特権だ。
自分の娘が手弱女なら、ハナもしばらくは様子を見ることにしただろうが、男顔負けの気丈夫な倫子だけに、単刀直入に訊いてみた。
「倫子!あなた、おなかの中に赤ちゃんがいるのではないですか?」
祖父の軍造の薫陶もあって、ハナは娘の倫子に対しても丁寧語を使う癖があり、それが余計に倫子を圧迫する。
ハナの言葉で倫子ははじめて事の重大さに気づいた。
15才の当時の娘では気づかないのが寧ろ普通の時代である。
だがここで、倫子の人並み外れた気丈夫さが発揮された。
「お母さま!わたしがふしだらなことをしていると仰るのですか!」
顔を紅潮させて激昂する倫子の勢いに圧倒されたハナは、黙ってしまったのである。
その場を取り繕った倫子だが、しょせん、15才の少女は、内心忸怩たる想いと共に暗澹たる想いが交錯していたのでは当然だった。
『自分独りで片をつけなければ・・・』