(その十六)老けた少女

「ハナはんに、先ず、電話しはったらどうどすか?」
母のハナに報告することが心情としての第一なのだが、倫子は心情を押し殺して、道理を守ろうとしていた矢先、増子の方から意外な発言だった。
「母をご存知なんですか?」
倫子が答える前の唐突な問いかけに、世の中の酸いも辛いも百も承知のはずの増子がたじろいだ。
「知りまへん!」
「・・・宇都宮様から伺っておしたんどす・・・」
増子が明らかに躊躇う様子を倫子も逃さなかったが、それ以上押すことを敢えてしなかったのは手弱女、況してや、手弱少女では真似のできない芸当だ。
人はみな自分の好きな道を行くのが一番いい。
自分の好きな道を行く中で、お互い相手のことを愛しく想えるのが真実だ。
一番よくないのは、人への想いが鈍感になることだ。
どんなに辛いことが人生に起こっても、相手への想いがいつも敏感であることだ。
他人を愛しく想うとは、相手への想いが敏感であることに他ならない。
緊張状態にあると言った方がいいかもしれない。
緊張状態にあるということは、『今、ここ』にいることに他ならない。
安心状態にあるということは、『今、ここ』におらず、過去若しくは未来に想いを馳せていることに他ならない。
結婚をするということは、未来への保証に他ならない。
婚姻届けを出すということは、未来への保証に他ならない。
婚姻届けとは、まさに、不渡り手形の発行に他ならない。
未来への保証、安心を買うというまったく狂気じみた行為に他ならない。
最後に「死」という問題が待ち受けているのにだ。
15才の少女の心境としてあまりにも老けているだろうか。