(その十六)少女の筋道

三ヶ月ぶりに輪違屋の前に立った倫子は、自分の一生の分岐点に立たされていることを痛感した。
『なぜか、ここが一番落ち着く・・・』
京都駅の山陰線に目を向けると何故か心が騒ぐのに、朱雀野の輪違屋に足が向かうと何故か心が落ち着く。
何故か?
倫子は、その瞬間(とき)、この疑問に対する回答を将来に託すことを決意したのである。
人生に迷っている間は回答が得られないが、暫く醸成期間を置くと自然に回答が湧き上がってくる。
人生の妙がここにもある。
理屈でわかる年齢ではまだないが、彼女の置かれた峻烈な立場が、それを可能にしてくれたのだ。
輪違屋に立った倫子は、すっきりした想いになっていた。
「まあ、倫子はん!」
女将の増子は多くを語らず、倫子の肢体を舐めるように見て言った。
「ここに置いて貰えるでしょうか?」
倫子は多くを語らず、増子の視線を押し返すような眼差しで言った。
福澤綾に連れられて行かれる前、何の宛てもなく榊原温泉に旅立った倫子の表情とは明らかに違っていることに増子は気づいた。
着物で覆われていても倫子の肢体が大きく変わっていたのは一目瞭然だった。
すべてを察したのか、増子は話題を逸らした。
「すぐのお勤めはまだ無理どすな?」
「ここで、養生しおすか?」
「それとも、・・・・・?」
増子の脳裏に軍造の姿が浮かんでいることはわかっている。
「一度・・・・・・・・・」
「わかりおした!」
女将の部屋を辞した倫子は控え部屋にある電話に向かった。
電話をするだけなら、榊原温泉での数ヶ月の間でもできたはずだし、京都駅の公衆電話でもできたはずだが、筋道と言うものが世の中にはある。
15才の倫子が筋道を守ったのだ。