(その十六)映像の成り行き

木戸屋の玄関先に車が停まった綾と倫子の視線は自然に合った。
毅然とした倫子の態度に異様さを感じた綾が倫子の言葉を待ったのは、自分に掛かった運命の暗雲をまだ15才の少女が堂々と受け止めようとしていたように思えたからである。
「わたしは堕胎しません!」
「自分独りで産みます!」
軍造から事情を予め聞いていた綾は、倫子の言い放った意味が、相手の男の是非で言っているのではないことを察した。
つまり、好きな男の子だから産むのではない。
温泉街で育った綾が、男女の機微をわからないわけがない。
『何か事情があるに違いない・・・』
「まあ、ゆっくり話しましょう!」
『結論はぎりぎりの最後まで出さない方がいい・・・』
どろどろした人間の機微が交錯するのが温泉街の特徴だ。
三名泉の一つである有馬の湯も、豊臣秀吉が妻寧々との機微を癒すために開いた場所だ。
爾来、有馬温泉の芸者たちにとって、寧々の心境を理解できる女になることを理想とした。
「宇都宮の家が呪われていることは、15才のわたしでも、充分承知しているつもりです」
「でも、わたしは宇都宮倫子ではありません!」
「わたしは、島田倫子です!」
倫子の突然の話に綾も怯んだ。
福山の宇都宮家に暗い翳があることは、以前から感じていた綾だったが、軍造の態度に圧倒されてきた彼女は、感じるままで止まっていたのである。
『足を踏み出す瞬間(とき)が、とうとうやって来た!』
『この娘はなにもかも知っているのかもしれない・・・』
綾は、それでもまだ倫子の結論に乗ろうとはしなかった。