(その十六)腹を据えた提案

「宇都宮様、なんとお詫びをしていいのか!」
円山一郎を後ろに控えさせて、木村信三は、頭を床に何度もつけながら、軍造に詫びを入れた。
木村の口上を聞いていた軍造は相槌を打つだけで、倫子を京都に旅立たせたことを何処で切り出すべきかを考えていた。
「この男には妻と三人の子供がいますが、離縁させ、宇都宮様のご承諾さえ頂ければ、お嬢様と結婚させ、責任を果たさせる所存です・・・」
『木村は本気だ!』
軍造は木村の提案に吃驚したが、相手の出方を見ることにした。
「しかし、妻女やご子息を如何するつもりで?」
「罪のない方が犠牲になるのも後味が悪いですな!」
軍造の性格を熟知している木村は、答えを事前に用意していたのである。
「わたしの子供にします!」
大胆な木村の提言に驚いたが、妻女の話がない。
「まさか、妻女もあなたが娶るのですかな?」
「彼女は、わたしの実の妹です。ご心配無用です」
軍造は、後年、倫子に看取られる死の床で、木村から離縁された円山一郎の妻女の行方を聞いていなかったことを後悔することになる。
「倫子は京都にやりました・・・」
軍造の突然の話に、床に手をついている二人が呆然としている。
「どど・・どういう意味でしょうか?」
軍造は冷静な表情で仔細を説明した。
「倫子は、円山さんの子供を孕んでしまいおった・・・」
二人の顔が真っ白になる。
「榊原温泉に堕胎のために行かせるつもりだが、その前に京都の先斗町で舞妓にさせる予定で、京都にやったのです」
今度は二人の顔が真っ青になった。
その頃、まさか、福山でこのような話し合いが持たれているとは露とも知らず、倫子はやっと輪違屋に着いたのである。