(その十五)緊張直後の悟り

恵美子の女としての直感と、畑家の血が相俟って時空を超えて共有する想いがここまで導いたのだ。
二人の兄の末妹として生まれた不運だけで、16才で水商売に身を染めざるを得なかった。
そんな運命を背負って生きてきたと思い込んできたが、やはり、“艱難汝を玉にす”だ。
己の使命を自覚するのは、艱難に遭遇した瞬間(とき)と決まっている。
“ルンルンの人生”から珠玉の幸運に遭遇することは絶対にない。
二人の兄は、京の都が誇りにする二つの大学の門を潜って、“ルンルンの人生”の登竜門の前に既に立っている。
それに比べて自分は、人間社会がつくり上げてきた泥水の溜り場に身を置いている。
“そんな泥水の川にも一片の花は咲く”
勤めの帰りに高瀬川の辺を歩く度に恵美子は自らを勇気づけていたが、実現するには余りにも人間社会は汚れ切っていた。
そんな中で、藤堂頼賢との出逢いは、砂漠の中でオアシスに辿り着いたような清々しさがあった。
そして、藤堂頼賢との出逢いが、澄江との邂逅の機会を与えてくれ、更には、自分の使命を決定づけてくれる鹿ヶ谷哲夫が待っている瞬間(とき)が刻一刻と迫っていた。
「お父はんが奥で待ってはるから・・・」
恵美子の目の表情の変化を敏感に察知した澄江が緊張した相好を崩した。