(その十四)始まったところに必ず戻る

「どうしたんや!?」
発作が収まった藤堂頼賢が、何事もなかったかのように、恵美子に語りかけた瞬間(とき)、彼女自身も自覚した。
『もう二度と吐かへん!』
この瞬間(とき)以来、摂食障害という厄病は二度と恵美子に襲ってこなくなったのである。
ところが、藤堂頼賢の発作は、この日を境にして逆に頻度を増すようになった。
『藤堂はん、うちの身代わりになってくれはったんや!』
恵美子は、根拠のないことなど起こりようがないと思っていただけに、自身に実際に不可思議な現象が起こると、その張本人を神と決めつけたくなるのが、人間の弱いところである。
張本人は、当然のことながら、神などでは決してないのだが、そこに、必然性があると思いたくなるため、神の登場を仰ぐわけだ。
最たる例として、数学者のエゴを否応なしに高めてきたのが、ポアンカレー予想とリーマン予想である。
ポアンカレー予想とは、我々の宇宙が球体になっているかどうかを証明できる方程式を誰が編み出すかに、注目がこの1世紀間集まってきた。
リーマン予想とは、素の数字(素数)には規則性があるかどうかを証明できる方程式を誰が編み出すかに、注目がこの1世紀間集まってきた。
両者の予想は共に、宇宙の円回帰運動の証明に繋がっている。
まさに、我々の宇宙の運動は円回帰運動を基にしている点にある。
すなわち、すべての事象は、始まったところに必ず戻ってくるというわけだ。
「どうしたんや!?」
その時、藤堂頼賢の発作が収まった。
まさに、始まったところに戻ってきたのである。