(その十四)心中(心の中)

「春若!」
「お前の命を、俺にくれ!」
藤堂頼賢から心中しようと云うことらしい。
恵美子がそのことにわかったのは、鹿ヶ谷哲夫の決定的な言葉にあったことを思い出したからだ。
「好きと嫌いの延長線だけに愛があるのではない。
すべての二元対立要因の超えたところに真実の愛があるのだ」
『圧倒的な話や!(圧倒的な話やわ!)』
鹿ヶ谷哲夫の圧倒的な話は止まるところを知らない。
「自分という意識がある愛なんてありえない。
自他の意識がある愛なんてありえない。
“わたしはあなたを愛している”
こんな愛などありえない。
“わたし”も“あなた”も落ちた、ただ“愛している”だけが残ったところにだけ愛がある。
だが一般凡夫は、
自分が相手(他人)を愛していると思い込んでいる。
若しくは、
相手(他人)が自分を愛していると思い込んでいる。
そんな自他の区分けがあるような愛などありえない。
愛とは自他の区分けのない意識に他ならないのだ。
こんなシンプルな真理すら、人間は理解できていないのである」
鹿ヶ谷哲夫は、「全体感」こそ愛の正体だと喝破する。
鹿ヶ谷哲夫は、「部分観」こそ戦争の正体だと喝破する。
自他の区分け意識こそ、愛を破壊するエゴであり、エゴとは五感が機能した結果の産物に他ならない。
恵美子と藤堂頼賢はお互いに凝視しながら、心の中で同じことを考えていた。