(その十三)愛情から友情

恵美子の摂食障害は精神病の一種と中毒症の合併症であったが、アメリカでこの病気が発生した時には、中毒症の一種であることはまだ判明していなかった。
単なるストレスから起こるものだと考えられていたから、1970年代の10年間に恐るべきスピードで全米中に拡がっていったのにも拘わらず、適切な治療法が見つかっていなかった。
ところが、ある偶然から、摂食障害が中毒症であることが判明した。
当時、全米中を席捲していたカーペンターズという兄妹デュエットの妹カレン・カーペンターが摂食障害に陥った。
全米ツアーコンサートしている二人はまるで夫婦のような生活をしていたから、兄のリチャードは妹の苦しんでいる姿を目の当たりに見、彼女の様子から、中毒症状を起こしていることに気がついたのである。
摂食障害に陥った人間は、自分独りで苦しんでいる姿を誰にも見せないものだが、彼ら兄妹の場合は違っていた。
彼らの仕事上の事情が一般の摂食障害に陥った人間と場合を異にしていたのである。
文明社会の落とし子である麻薬中毒は、最先端の文明国アメリカの申し子だから、中毒の薬抜きノウハウは群を抜いている。
まさに、映画“黄金の腕”の面目躍如だ。
兄のリチャードは、妹の中毒の薬抜きを見事にやってのけたのである。
薬抜きする人間と薬抜きされる人間との間に全面的な信頼がなければ可能ではない。
藤堂頼賢は恵美子を恋人とは思わず、肉親と思い込むことにしたのである。
そうすると、恵美子の様子が激変した。
まさに、友情は愛情を凌駕したのである。