(その十三)献身的な愛

「“黄金の腕”という映画が昔あった」
鹿ヶ谷哲夫が嘗て自分に話をしたことがあったことを、藤堂頼賢は思い出した。
「カードゲームのギャンブラーが麻薬中毒患者から抜け出す話だ」
鹿ヶ谷哲夫の話はこうだった。

無法の町シカゴで、警察によるポーカー博奕の手入れがあった。
麻薬中毒を患っていたカード配りの男が連行され、レキシントンの連邦麻薬対策病院で6ヵ月も監禁された挙句、シカゴに舞い戻ってきたところから物語は始まる。
彼の名はフランキー。
彼の小さなアパートには、車椅子に坐ったままの美しい妻ザッシュが待っていた。
フランキーは妻のザッシュにレキシントンの病院で習ってきたドラムで生活したいと熱く語ったが、彼女はそれを喜ばず、トランプ賭博では「黄金の腕をもつ男」といわれているほどの名うての配り手の腕を使えと主張して、彼の提案を拒否する。
ドラマーとして生計を立てたい彼は、楽団員のオーディションに受けるために、友人のスパロウと洋服一揃いを盗んだところを見つかって、万引きのかどで警察に連行される。
賭博場のボス・シュワイフカは、黄金の腕をもう一度使うなら保釈金を出してやるとフランキーを誘い込む。
警察への密告者はシュワイフカだと判っていたが、彼のいうなりになるより仕方がなかった。
大きなポーカー・ゲームは徹夜で続いた。
胴元のシュワイフカが危なくなったのを助けようと、隠していたカードをフランキーが使うと、急に手が震え出して見破られ、賭場は乱闘の場となってしまう。
その日は丁度オーディションの日に当たっていた。
賭場から抜け出したフランキーはオーディションに間に合ったが、手が震えてドラムを叩けない。
見事にオーディションに落ちたフランキーは、恋人のモーリイの献身的な支えで、3日間の間もだえ苦しんだが、ようやく薬抜きに成功した。
しかし、モーリイと妻のザッシュは犠牲になって死んでいく。
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『よほどの決意がない限り、中毒症状から抜け出すことはできない・・・』
藤堂頼賢は清水の舞台から飛び下りる決心をしたのである。