(その十三)命を賭けた勝負

「今度、無理やり吐くようなことをしたら、俺の命はなくなると思うことやな・・・」
恵美子は、藤堂頼賢の言っている意味が最初理解できなかったが、ある日、彼が発作で倒れたことを、女将の増絵から聞いたのである。
「さっき、中村屋の女将から電話があって、藤堂はんのご子息はんが危篤やなんやて・・・」
「持病の発作がでたらしいんやけど、お医者はんを寄せつけはらんのやて・・・」
増絵は花若に伝えるつもりで春若に言ったのだが、恵美子は母親の倫子に報告することを忘れてしまうほど動転してしまった。
後日そのことを知った増絵は、春若と藤堂高順の子供との間に何かあると察知したのである。
そして、倫子も増絵から仔細を聞いていた。
動転した恵美子は、藤堂頼賢の言葉を思い出した。
「今度、無理やり吐くようなことをしたら、俺の命はなくなると思うことやな・・・」
中村屋の昨晩の席で春若は羽目を外し、藤堂頼賢の忠告も忘れてしまっていた。
『昨日の罰が当ったんやわ!』
恵美子は、はじめて心の中で神頼みをした。
『神さま!もう二度と過ちは犯しませんから、彼を助けてください!』
『今度、過ちを犯したら、彼は絶対に死にます!』
麻薬中毒患者の薬抜きは想像を絶する地獄の世界を展開する。
中毒症状を呈する病気は同じ地獄の世界を展開する。
まさに、命がけの勝負なのである。
命を張る覚悟がないと薬抜きの勝負に勝つ見込みはない。
恋愛も命を張るぐらいでないと本物ではない。
恵美子ははじめて自分の命を張る覚悟をしたのである。