(その十三)命の絆

藤堂頼賢は先天的な病を擁していた。
彼が世に生まれ落ちた代わりに、母親が命を失っただけでは済まず、彼自身にも一生背負わなければならない重荷が与えられたのである。
先天性癲癇症で、生まれつき脳波に欠落がある病気だ。
検査をすると健常者の脳波には一切欠落がないのに、藤堂頼賢の脳波には不規則な欠落が顕れる上に、波形が異常な形をしているのである。
彼が7才の時にはじめての発作が起こった。
発作が起こると、意識が徐々に失われていき、一般的に言う脳死状態になるのである。
脳死状態が長い時には数時間に及ぶことが度々あったのだから、脳波の欠落どころでなく、心臓停止ならとっくに死に至る。
特に、彼が立命館大学に入学してからは、発作は頻発するようになっていた。
藤堂頼賢は、そんな病気に苦しめられている中で、恵美子と出会った。
いつ死んでもおかしくない状態で成人式の通し矢競技に参加したのだが、腹を括った人間は途轍もなく強くなる。
恵美子も摂食障害からの脱出に失敗した矢先だけに、藤堂頼賢と同じ心境にあったことが、ふたりをより近しくさせた。
腹を括ることは、人間の潜在能力を極限にまで大きくする。
如何に自我意識という自分が潜在能力の障害になっているかを計る物差しになるのが、腹の括り度合なのである。
潜在能力の発揮度が高まれば、現実の世界での競争など、実に他愛のないものだ。
ふたりの通し矢競技の結果は抜きん出ていた。
極限状態での共通項が途方もない絆の力になって、ふたりを強烈に結びつけた。
だが、ここで男と女の違いが出た。
女は絆を持てた男に命を委ねる。
男は絆を持てた女に命を与える。
恵美子は自分が摂食障害であることを告白した。
藤堂頼賢は限りある自分の命を恵美子に与えた。