(その十三)二度目の転機

16才で先斗町の舞妓になった直後に、恵美子の体に異変が起きた。
摂食障害に陥ったのである。
家族の誰にも言えず、独りで苦悩する現代病で、若い女性が圧倒的に多い精神病の一種だ。
過食と拒食を繰り返し、そのうちに、食べたものをすぐ吐くことによって、過食をカバーしようとする。
食べたものだけを吐くなら問題はないのだが、吐いた中に大量の唾液と胃液が含まれていることで、内分泌腺に異常をきたす恐ろしい病気だ。
次第に痩せていくと同時に、顎骨が張ってくる。
唾液と胃液の過剰分泌が顎骨を異常発達させ、歯のエネメル質を溶かしていくことで、歯がボロボロになっていく。
恵美子は16才で舞妓になった時から過度のストレスで次第に過食・拒食を繰り返すようになり、19才の時には、過度の摂食障害になっていたが、救いの手を差し伸べてくれたのが藤堂頼賢だった。
成人式を迎える直前に、恵美子は母親の倫子に自分が摂食障害になっていることを告白したことがあった。
この病気の多分の原因は、母親と娘の確執にあることが学会で報告されていることを知った恵美子は、思い切って倫子に相談してみたのだが、結果は悪循環に陥ったのである。
母親が悔い改めると娘の病気は快方に向かうが、母親が自己責任を拒否すると、娘の状態はますます悪化するらしく、母親に相談することは両刃の剣の危険性があるのだが、恵美子は一か八か賭けてみたのである。
母親に相談した結果が最悪になり、八方塞がりになっている中で、藤堂頼賢に出会い、藁をもすがる気持ちで、恵美子は藤堂頼賢に告白した。
彼はそんな彼女を大きく受け入れ、救われたような気持ちになった恵美子も、自分の一生を藤堂頼賢に託そうと思ったのである。
藤堂頼賢と出会ったのが一度目の転機なら、藤堂頼賢に救われたのが、彼女の二度目の転機になったのである。