(その十三)末子相続

フツはヤマタのオロチに知られているから、フツシが彼らの様子を伺いに行くことになった。
クシがフツシを引き連れて挨拶にいくことになった。
「クシよ。今日は酒か女かと思ったら、若い男ではないか。何者だ、こ奴は?」
ズガが大きな声で、いかにも自分が一番偉いと鼓舞しているかの振る舞いで言った。
「はい、ズガ様。ここにいますは我が姫イナダの許嫁で、フツシと申します。本日はみなさまにご挨拶をと参上致しました」
淡々と喋るクシに他の兄弟たちが、貪欲な顔立ちで睨んでいた。
彼らにとって許嫁と聞くだけで、欲望が湧いてくるのだ。
他人の女を寝取ることが無上の快感であるらしい。
「フツシと申したな。お前はどこの国から参ったのか?」
イガが尋ねたが、フツシは黙って答えなかった。
「はい、イガさま。フツシは伊吹の山の出でございます」
クシが代わりに答えた。
それが余計イガには気に入らなかったらしい。
「伊吹の山の者であれば、トビの術を心得ておるはずだ。ここで披露せよ」
イガはフツシに向かって命令口調で言った。
気の強さではフツシは誰にもひけをとらない。
「トビの術は一人で披露できませぬ。相手が要ります」
「それなら、わしが相手しよう」
イガが長子の威厳を示そうとした。
トビの術とは忍びの術だが、それは遥か後のことで、当時の狩猟時代には、獣相手の素手の闘技であった。
フツシもイガも扶余族だから体格は六尺をゆうに超える。
横にいたクシなどは五尺にも満たない。
イガも自信たっぷりにフツシの前に立ちふさがった。
頭も切れるフツシは自分の方から仕掛けようとはしないで、相手の出方を待っていた。
イガがフツシの胸ぐらを掴まえようと右腕を伸ばした、その瞬間フツシの左手が、伸びてきた腕の内側をすっと通ってイガの右肩を掴み、思いきり引き下ろした。
フツシの強力な腕力でイガは前にのめり、その後は何が起こったか誰も分からない程の一瞬でイガは口から泡をふいて気を失っていた。
他のオロチたちはフツシに、飛びかかろうとしたが、ズガが一喝した。
「手を出すな!」
そしてフツシに向かって笑った。
「フツシとやら。いつかお前とは雌雄を決する時が来そうだな」
フツシも思った。
『このズガがヤマタのオロチの頭だな・・・』
まさに、ヤマタのオロチ一族は末子相続の慣習を持ったモンゴル騎馬民族の血を引いていたのである。