第六十章 先伸ばしの人生

死に際して、はじめて錯覚の人生であったことに気づくであろうことを無意識の中でわかっているから、死を怖れて生きている。
つまり、先伸ばしの人生を送っている。
わたしたち人間の大半の生き方であります。
“こんな筈じゃない!?”
常に心の中で葛藤して生きているわけです。
本音と建前で生きていると言い換えてもいいでしょう。
人間だけが分裂症になる所以であります。
他の生き物のように『今、ここ』を生きることが出来ない所以であります。
過去や未来に「想い」を馳せて生きている所以であります。
先伸ばしの人生とは、自身に対する自信の無さで以って生きることであります。
安心立命の人生とは、自身に対する完全な自信で以って生きることであります。
では、自身に対する完全な自信で以って生きる条件とは一体何でしょうか。
この世的成功が、自身に対する完全な自信を与えてくれるでしょうか。
お金持ちになっても、自身に対する完全な自信を与えてくれるでしょうか。
権力を得ても、自身に対する完全な自信を与えてくれるでしょうか。
名誉を得ても、自身に対する完全な自信を与えてくれるでしょうか。
そんなこの世的成功など砂上の楼閣に過ぎない。
お金持ちだからといって、病魔は遠慮してくれません。
権力を得たからといって、病魔は遠慮してくれません。
名誉を得たからといって、病魔は遠慮してくれません。
逆に、お金持ちになればなるほど、病気になるのが怖くなる。
逆に、権力を得れば得るほど、病気になるのが怖くなる。
逆に、名誉を得れば得るほど、病気になるのが怖くなる。
中国ではじめて天下を統一した秦の始皇帝が晩年、不老長寿の薬を真剣に追い求めた徐福伝説は有名な話ですが、まさに、人間の本質を示唆している。
病気を怖れるのは、その後に続くであろう死を怖れているからに他なりません。
結局の処、死の先伸ばしの人生を送った結末であります。
死の問題を先伸ばしにする限り、この世的成功であろうが、あの世的成功であろうが、何の意味も持たないのであります。