第三十一章 哲学より生まれた資本主義・社会主義(5)

哲学から経済学へ(3)

イギリスを発祥の地とし、アメリカを盟主とする、自由主義思想による資本主義体制に対抗した勢力であるヨーロッパ大陸本土の国々が、ソ連の崩壊によって敗退した筈の東側陣営の新しい枠組みを模索し始めた。
彼らは、イギリスで十八世紀にはじまった産業革命よりもずっと早い時期、イタリアで起こったルネッサンス期とほぼ同時期若しくはそれよりも早い時期に、自分たちの国で起こった近代思想の産声を決して忘れていないのです。
啓蒙思想に大きな影響を与えてきた演繹的思考回路を持つ合理論哲学の土壌が、今なお綿々と脈打っているからであり、その中心的役割を果たしているのがドイツでありフランスです。
EU(欧州連合)に新しくメンバーとなった諸国が嘗ての東側陣営に与した国々であることが、資本主義体制は共産主義体制に勝利はしたけれども、自由主義思想が啓蒙思想に勝利したとは言えない証です。
ましてや、経験論に基づく帰納法的考え方が、合理論に基づく演繹的考え方を駆逐したとはおよそ断定できないのです。
アメリカを盟主にする資本主義体制が、人間の考え方にまで影響を及ぼすことは不可能です。
それは古代エジプト、ローマ帝国といった奴隷社会をその踏み石にした時代においても不可能だった人間の心の聖域であるからです。
イラク戦争や北朝鮮の日本人拉致問題は、人間の心の聖域に土足で踏み込んだ政治の最も忌むべき非道であり、ナチスドイツの行為と何ら変わりのないものです。
20世紀に起こった人類の悲劇の根源が、20世紀のイデオロギーに在り、更には、ヨーロッパ近代哲学思想の黎明期におけるふたつの考え方に起因していたのです。