第十五話 今死ね今殺してしまえ

淀藩稲葉家の侍が江戸への下向の道すがら白隠のことを思い出した

白隠といえば天下に名だたる傑僧との評判

どんな坊主か見てみたくなった

原宿の松蔭寺にいる白隠を訪ねた

和尚さん ひとつ我々に修養になるような句を賜りたい と申し入れした

よしよし と白隠は言って座右の紙に書いて与えた

見ると 「若い衆や 同じ死ぬなら 今死にゃれ」

若い侍は怒って言った

坊主 ばかなことを書きくさる こんなものが何の修養の足しになる

松蔭寺を出たら その書をそのまま鼻をかんで捨ててしまった

供していた下男が その書をそっと拾っておいた

それが今では某家の家宝になっている

白隠の言った 今死にゃれは 肉体の生死を意味したのではない

心の改造 魂の入れ替えを言ったのである

六識も八識も悉く死なせ殺せと言ったのである