第五章  荘厳な元旦

二十三人が勢ぞろいした部屋で、岩田武男が挨拶をした。
「みなさん、あけまして、おめでとうございます」
と言って頭を下げると、
「あけまして、おめでとうございます」
全員が大きく言った。
「おい、健吾。僕はじめてだよ。あけまして、おめでとうございます。なんて言ったの」
健吾の横に座っていた太一が言った。
「ええ、本当に?」
健吾は信じられなかった。
「だって、家でこんなことした、憶えないもん」
「だけど、正月元旦に、あけまして、おめでとう。ぐらい言うだろう?」
太一は首を横に振った。
健吾も六年生になると、ある程度大人の世界のことも判って来る。
当たり前のように思っていることが、実は違うのだ。
これだけ、豊かになった日本でも、まだまだ差がある。
ましてや、地方になると、もっと差がある。
東京だけで、しかも大田区は裕福な家庭が多い。
そこで育った子供たちは、世の中こんなもんだと思って大人になって行く。
そして、そういう子供の中から、政治家になったり、役人になったり、事業家になったりする。
「こんなやり方を戦後五十年以上、少なくとも東京オリンピック以来、この国は続けて来た。歪な国の極みになっている。一体誰に責任があるのだろう」
栄一は考えてみた。
「自分だって、親の後を継いで大した苦労もしないで今まで来た」
太一の話を聞いていた大人たちは、深刻に捉えていた。
「このままではいけない!」
その時、太一が雰囲気を察して、大きな声で言った。
「僕たちが大人になった時には、餅つき大会も、元旦の挨拶や集まりも、みんながやるようにしよう!」
大人たちはそれぞれ黙っていたが思いは同じだった。
「そうだ。この子たちの時代に向かって今からでも一歩一歩やるべきことをやって行くしかない!」
荘厳な気持ちにさせてくれた元旦だった。