第七章  感激の終業式の日

一学期の終業式の日がやって来た。
健吾が、いつもの通り太一と一緒に登校していると、後ろから「おはよう、健吾君、太一君!」と言って佳代と恵津子が笑いながら走って通り過ぎて行った。
ふたりはびっくりした。
健吾は黙ったままだ。
太一は、「おい、健吾。何だよう、あれは?」
ふたりの性格が良く表れている。
普段と違うことが起きると、健吾は内に篭ってしまうから、言葉が出ない。何かを言おうと思っているのだが、言葉が出ないのだ。
太一は、そういった時は必ず、考える前に音が口から発せられる。「何だよう!」
といった具合だ。
ちょうど健吾と佳代の性格が似ていて、太一と恵津子の性格が似ている。
太一と恵津子は思ったことや、感情がすぐに外に現れる、いわゆる根明(ねあか)型で、健吾と佳代は感情を飲み込んでしまう根暗(ねくら)型である。
どちらも一長一短で、良い悪いは無い。
健吾や佳代は、愛想は悪くて冷たく思われるが、心の中は正反対にもの凄く暖かくて思いやりが深い。
太一や恵津子は、愛想が良くて親しみがあるが、心の中は結構冷めていて、自己本位のところがある。
この一年間に、自分たちの隠れた面が顕れたのは大きな経験であった。
その集大成が、今日の終業式だった。
朝一番、佳代と恵津子から、シグナルを送ってきた。
本来なら恵津子の提案であるはずだが、実は佳代が提案したのだ。
恵津子も最初は躊躇っていたが、佳代のいつもと違う強引さに負けたのだ。
今度は健吾が勇気を奮う番であることを、黙ったままでいる心の中で健吾は分かっていた。
「みなさん、これから長い夏休みに入りますが、お父さん、お母さんの手伝いをして良い子の夏休みにしてください。今は大人が大変苦労しています。
だから、みなさんが大人の人たちを励ましてあげてください。
みなさんのようなまだ小さい子供たちが、お父さんやお母さん達大人を元気づけてあげようと思うことが大事であることを忘れないように。
だから、今年の夏休みは、宿題はありません。
みなさんが、お父さんやお母さん達大人の人々を、どれだけ元気にしてあげられるかが宿題です。いいですね、頑張ってください。
病気にならないよう注意してください。
それでは、また九月に会いましょう」
校長先生が、今までとまったく違う終業式の挨拶をしたので、生徒たちはびっくりした。
みんなが解散した後に健吾と太一はグラウンドに残っていた。
そこに佳代と恵津子も立っていた。
「佳代ちゃん、恵津子ちゃん。また仲間になってキャンプに行こう!なあ太一」
精一杯の健吾の言葉だった。
恵津子が感激して、その場で「わああ」と泣き出した。
その恵津子のところへ差し伸べた手は太一ではなく健吾のものだった。
清々しい顔をして大笑いしている四人の姿を映す影は、まだ長い夏の朝の陽射しだった。