第十六章  本当の絆

佳代の家の前まで勢いよくやって来た五人だったが、いざとなると太一も躊躇した。
「みんな中に入って」
佳代がそう言って、門の錠をはずして玄関に歩いて行った。
「太一、お前が行こうと言ったんだろう。早く行けよ」
浩は太一の背中を押した。
「京都では家族として一緒に住んでいたんでしょう。遠慮なんかしないで!」
恵津子もけしかけるように太一に言った。
しかし、健吾には理由は分からないが、何となく太一の気持ちが分かるような気がしていたから黙っていた。
家庭が平凡で大過なく幸せな中に住んでいる者には、複雑な家庭のことはなかなか理解出来ないものだ。
太一も佳代も、一般からみればそれぞれ事情がある複雑な家庭で育っている。一方、健吾も恵津子も浩も、どちらかと言えば恵まれた環境で育ってきた。
だがこの一年の間に、健吾は運動会での屈辱、恵津子は二朗とのことでみんなから仲間はずれにされたこと、そして浩は二朗からひどい目にあったことと、少年ながら、ひとつの壁にぶつかり苦しみ、何とか乗り越えてきたため、他人の痛みが自分の痛みと取れる思いやりのある子供に成長していた。要するに一枚皮が剥けていた。
確かに太一の兄たちは更正して正しい道を歩みだしたが、まだ貧しさという境遇からは抜け出せないでいる。
佳代は貧しさの経験はないが、少女ながら心のやるせなさを経験していて、時には他人への思いやりとして出てくることもあるが、独りになると、どうしようもない淋しさに襲われることに怯えている。
太一が率先して佳代の家に行こうと言っておきながら、いざとなって躊躇したのは、自分自身もまだ一皮剥けていないことに気がついたからだ。
そのことを健吾は察していたのだ。やはり一番長い友達だから理由(わけ)は説明出来なくても、理解は出来るのだった。
普段は元気づける言葉を吐く健吾だが、この時だけは何と言っていいのか分からなかった。
「太一。お前はここで待っているか?」
優しく声をかけた健吾の顔を見て太一はべそをかいた。
「俺には佳代ちゃんに何もしてやれないや。健吾、お前が何かしてやってくれよな。頼むよ」
健吾は家の中に入って行った。
「太一君はどうしたの?」
佳代は不安そうな顔をして健吾に尋ねた。
「太一は、佳代ちゃんのお母さんのこと良く知っているだろう。だから返っていない方がいいと思って外で待っていると言ってるよ」
佳代もべそをかいている様子だったが、健吾が、「佳代ちゃんは何も心配しなくていいよ」と言って何とか母親のいる部屋に四人が入って行った。
佳代の母親の美佐子は四人が突然現れたので仰天した。
「どうしたの、みんな?急に!」
佳代が美佐子に事情を話したら、美佐子は泣きだした。
「ほらね、こうやってすぐに泣きだすのよ」
みんなに話す佳代に、美佐子は佳代の頭を抱えて他の三人に笑いながら言った。
「みんな、ごめんね。わたしが最近よく泣いているのは悲しくて泣いているんじゃないのよ。佳代にちゃんによく説明しておけばよかったわね。あのキャンプ旅行以来、お父さんとお母さんがよく話しをするようになってね。何て言ったら分かってもらえるか、一言で言えば、前より以上にお父さんとお母さんとが好き同士になったの。それで嬉しくて泣いていたの。佳代が心配しているなんて気がつかずに、ごめんね、佳代」
美佐子の話しを聞いた佳代が、「わああ!」と泣きだした。
「嬉しい時に泣くのは、いいなあ!」
恵津子も浩も佳代と一緒に泣いていたのを独りで眺める健吾は、泣いた記憶がない少年だったので、みんなが素直に泣けることに感動を憶えながらも、疎外感を持った。
「僕はどうして泣けないんだろう」