第十五章  宿題報告会

キャンプ旅行が終わって、みんながそれぞれの思い出を胸に刻みながら、大人たちは、再び現実の世界に戻って行った。
そして子供たちは、残された一ヶ月足らずの夏休みに、いろいろな想いを馳せるのであった。
幸い、今年の夏休みは、宿題はない。
如何に、両親を元気づけてあげるかがテーマで、それをどれだけ実行出来るかが宿題になっていた。
キャンプ旅行では、子供たちも充分貴重な経験をして楽しんだが、それ以上に大人たちの心に大きなプレゼントを与えられたことを、子供たちは実感していた。
それぞれの家庭に戻ってからの大人たちの態度が、まったく変わったからだ。
五人の仲間が、健吾の家に集まることになった。
それぞれの家庭の変化を、お互いに報告し合うためである。
「僕の家がどう変わったかを話しするけど、いいかなあ!」
健吾が言うと、太一が、「俺の話しを先に聞いてくれよ!」生き生きとした表情で太一は主張した。
「そんなに話しをしたいなら、太一からしたら?みんないいだろう?」
健吾は、以前に比べて驚くばかりの変貌を遂げていた。
率先して話しをし、みんなをリードして行こうとする姿勢が見られるようになったことだ。
「ああ、いいよ」浩が言うと、
「そうね、太一君からでもいいわね」恵津子が相槌を打った。
「何だよう!俺からでもいいわねって。俺の話しなんかどうでもいいのかよう!」
ふくれっ面をした太一だったが目は笑っていた。
「俺んちの家はよう!猛兄ちゃんが暴走族の仲間から足を洗ったんだぜ。すごいだろう」
「足を洗うことが、そんなにすごいことなの?」
恵津子は意味が分からず太一に聞いた。
「お前、何にも分かっていないんだなあ」
太一があきれ顔で言うと、横から佳代が、「恵津子ちゃん。暴走族の仲間から足を洗うというのは、暴走族を止めたということなのよ」
「ふん?そんなに暴走族を止めるというのはすごいことなの?」
恵津子はまるで分かっていない。
「それで猛兄ちゃんはどうしたんだい?」
浩が興味ありそうに太一に聞いた。
「大分、もめたようだけど、浩兄ちゃんが出て来て収まったようだ」
太一の話しぶりはまるで大人のようだった。
「さすが、俺の親分だ!」と言う浩に、太一は嬉しそうに、「お母ちゃんが、泣いて喜んでいたよ」と言った。
浩は、万歳をして喜んだ。
健吾もさすがに、太一と浩の会話をすべて理解は出来なかった。
二人は手を取り合って、はしゃいでいた。
健吾、佳代、恵津子は、ぽかんと聞いているだけだった。
「浩、お前んちは、お父ちゃんとお母ちゃんだけだろう?」
太一は、浩の家族が、どんな風に変わったのか興味があったのだ。
それはすぐ上の兄である勇次が、宿坊の寝床の中で太一に言ったことを思い出したからだ。
「おい、太一。あの浩の親父とお袋さん、年はいくつなんだ?あれは、もう七十才を超えてるぜ。浩はお前と同じだから九才か十才だろう。そうすると六十近い歳で子供を産ませたんだ、大したもんだ」
「勇お兄ちゃん。六十才で子供をつくるのは大したもんなのかい?」
太一は不思議そうに聞いた。
「そりゃー、お前・・・」勇次が喋りかけたところで次男の浩が勇次を遮って言った。
「勇次、いい加減にしろ!」
勇次は黙ってしまったが、太一は消化不良をおこしていらいらしていたのだ。
五人の小学四年生の中で、太一が一番男女のことに関して好奇心旺盛だから、何でも知りたいのだ。
宿坊の寝床でのことを思い出した太一は、浩の両親のことを知りたかったのだ。
「何だよう!太一の言っていることが、俺には分かんないよ」
「お前は、一人で寝てんのかよう、家で?」
「そうだよ。俺の部屋で寝てるんだ」
「それじゃ、お父ちゃんとお母ちゃんは一緒に寝てんのかよう?」
「当たり前じゃんか」
「何か変わったことないか、キャンプから帰ってから?」
浩は太一が聞いている真意が分からない。
「こうさ、今までより仲良く寝ているとかよう」
太一は徐々に核心に触れようとするのだが、他の者は、まったく太一の意図が分からない。
みんなが、黙ってしまったので、
「もういいや!」
怒ったような口ぶりで太一は黙ってしまった。
「上村ところは、どうだった?」
浩が恵津子に聞いた。
「わたしのところは、あれ以来とても自由になって、パパもママも。ああ!いけない。お父さんもお母さんも、わたしを自由にしてくれて、習い事も行きたくなければ止めてもいいと言うのよ。わたし、びっくりしちゃった。だからあれ以来、家で勉強したことないの。こんなこと生まれて初めてよ」
佳代の表情が少し曇ったのを、太一と健吾は逃さなかった。
「佳代ちゃんちは、どうだった?」
健吾が佳代に聞いてみた。
佳代は、最初は黙っていたが、以前なら黙ったままだが、今の佳代は違った。
「お母さんが、あれ以来泣いてばかりいるの。なぜだか分からないの」
佳代の話で、みんな黙ってしまった。
何て言っていいのか分からないのだ。
「佳代ちゃんちの家に今から行こう!」
急に太一が言い出して、みんなびっくりしてしまったが、結局太一の強引さに押されて、五人で佳代の家に向かった。