第十章  中央フリーウェイ

八月一日から三日まで、総勢二十三人のキャンプ旅行が始まった。
バスを借り、太一の兄の浩が運転して、一行は中原街道から首都高速の越原インターに入った。
「さすがに浩君は運転手をしているだけに、バスのような大きなハンドルも手馴れたもんだね」
栄一は盛んに感心していた。
栄一はカーキチで、唯一の道楽が車であるだけに浩の運転さばきの素晴らしさに目を奪われて助手席に座って、浩の運転に魅了されていた。
栄一の子供のような姿に春子が、「子供たちの会なのに、付き添いの大きな大人が子供のようになって、まったくミイラ取りがミイラになってしまって・・・」
恥ずかしそうに、みんなに言った。
健吾はそういう春子を見ていて、「お母さん、ああ言ってるけど、お父さんのことかわいいと思っているんだ」
太一に言うと、太一は不思議そうに「健吾、お前、どうしてそんなこと分かるんだ?」
と聞いた。
「だって、お母さんがああいう表情をしている時は、お父さんのこと、いいなあと思っている時なんだ」
「ふうん、そうか。それじゃ、そんな時、布団の中に裸になって一緒に寝るんだなあ。そしたら赤ちゃんが生まれるんだ」
ちょっと興奮している様子でしゃべる太一の顔を見て健吾は、何故か分からないが複雑な気持ちになった。
浩の運転するバスは中央高速道路に入り、調布を過ぎた。
その時、佳代の母親の美佐子が武吉にハンドバックから何かを出して手渡した。
武吉は運転席の浩のところに行き、「浩君、悪いが、このテープかけて欲しいんだけど」と少し恥ずかしそうに言ってテープを渡した。
「音楽テープですか?いいですよ」
浩はテープデッキに武吉から手渡されたテープを入れて、デッキのスイッチを押した。
「中央フリーウェイ、調布基地を追い越し・・・左はビール工場・・・」
バスの中一杯に曲が流れた。
急に音楽が流れだしても、子供たちは気にもせず窓の外を見て騒いでいた。
しかし大人たちは、ざわめきだした。
「大野さん、この曲に想い入れがあるんですね、美佐子さんとの・・・」
栄一が微笑ながら言うと、武吉が顔を赤らめながら「ええ」と言って美佐子のところへ戻った。
「おじさん、この曲、僕も知っています。ほらもうじきビール工場が見えますよ」と運転する浩が言って左側の方を指さした。
栄一が後ろを向いて武吉に指さすと、武吉がVサインをした。
その横で恥ずかしそうな表情をしながら、左前方を見つめている美佐子の瞳が光っているのを見た栄一は、武吉に向かって美佐子を指さした。
武吉は窓側に座っている美佐子の顔を見て、急に座って神妙な顔をして一緒に窓外を見ていた。
「大野さんは、いい政治家になるだろうな」と栄一は思った。