第七章  太一京都へ

三人が教室で無言のままで座っているところへ太一がやって来た。
「おっす。健吾、元気そうじゃんか」
何事もなかったように普通に振舞っている太一に、健吾はつっかかった。
「太一。お前、佳代ちゃんと一緒に京都に行くのか?」
「そうだよ。前からの約束だから、俺は行くよ。健吾、お前は東京にいろよ」
健吾は内心、京都に行くことは無理だと思っていたが、約束だと言われたら、そのまま引き下がる訳にはいかない。
「僕も約束したんだから・・・」
それ以上言葉に出せないでいる健吾に太一が言った。
「健吾、無理すんなよ。お前は、東京にいなきゃ駄目だ」
太一が健吾のことを思いやって言ってくれていることは、他の二人にも痛いほど分かっていた。
「別に無理なんかしてないよ」
口を尖らせて言う健吾に、太一は言った。
「お前まで、東京にいなくなったら、上村がかわいそうじゃんか。そうだろう、上村?」
恵津子はいつもの下向き加減の顔を益々下に向けて頷いた。
「そうよ。ふたりは、わたしの代りに上村さんと仲間になったんでしょう?
健吾君まで京都に来たら、上村さんがかわいそうよ」
健吾は、こういう状態が一番苦手だ。だから心にも無いことを言ってしまう。
「上村は、みんなの人気者だから、僕たちがいなくなっても大丈夫だよ」
下を向いていた恵津子の顔が上がり、キリッとした表情になって、
「健吾君、ひどいわ!」
と言って教室を飛び出して行った。
「健吾、お前それはひどいよ」
太一も怒った顔をして言った。
横で佳代も頷いていた。
内心、これは困ったことになったと思ったが、健吾は黙っていた。
「健吾、行ってやれよ」
太一の思いやりに比べて、自分の身勝手さに嫌気がさしていたが、太一の言葉で、素直になり、「うん」と言って教室を出て、恵津子を探しに行った。
グラウンドの鉄棒の横で恵津子は泣いていた。
何て言っていいのか分からずに健吾は、恵津子のそばに行って、ただ立っているだけだった。
「健吾君、上村さんのこと好きなのね」
佳代が太一に言った。
「ああ、俺も上村のこと好きなんだ」
太一が言うと、佳代が今度は下を向いてしまった。
「しまった!」と思った太一は、
「だけど、俺は佳代ちゃんを一生守ってやるんだから、心配しなくていいよ。京都に一緒に行こう」
佳代が顔を上げると、頬に涙が流れていた。
太一は何を言っていいのか分からずに、ただ立っていた。