第六話 身勝手な人間【時刻:2023年2月6日午前1時45分】

わたしの話を聞かれているみなさんの時刻は、2016年2月6日午前1時45分土曜日ですから、わたしとの間にちょうど7年の時差があります。
わたしが、タイムトンネルに入って、7年早く進んでいるのです。
わたしの年齢は8才になったところですが、実はみなさんが、わたしの話を聞かれる時は、わたしはこの世に生まれ出た直後なのです。
お父さんは、わたしが女の子なのでほっと胸を撫でおろしたそうです。
もし男の子だったら、自分と同じ運命を辿るかもしれないと思っていたからです。
でもお母さんは男の子を欲しがっていました。
もうその頃、お父さんは表舞台に一切姿を現すことをしなくなっていました。
世界が混乱状態になり、お父さんが日本の東京で、世界の偉い人たちの前に姿を現した2・3年前までは、世界がお父さんに注目していたそうで、すごい人気があったそうです。
都会とは違って高野山という場所もあって、お父さんは、幸福感ではなく、自己の平和感を味わっていたそうです。
幸福を感じた時には、すでに不幸へ向かっているのが大人の常識だそうで、幸福というのは、みんなが思わないと感じなくて、わたしひとりだけが幸福なんてありえないのですよ。
自分さえよければ幸福になれるなんて、それは身勝手というものなのです。
一般の人は幸・不幸の感覚ばかりに執らわれてしまうが、お父さんのように、激しい人生体験をすると、幸・不幸の感覚のいい加減さが身に沁みて解ってくるそうです。
みんなが幸福を感じてこそ、わたしの幸福に繋がることを知ることが大切なのですよ。
みんな、自分の幸福ばかりを追いかける。
本当は、個人の幸福なんて有り得ないのです。
みんなが幸福になって、初めてわたしの幸福も得られるという、実に簡単な真理を理解できないでいる人たちばかりで、わたしは悲しいです。
お父さんが言ってました。
「世界の平和は、自己の平和の集合体であり、世界の平和なくして自己の平和はなく、また自己の平和なくして世界の平和もない」
「正義は力、力は正義、正義の世界が平和の世界なのである」
「宗教や政治の世界では、正義のために戦うと言うが、実に愚かなことである。
正義とは平和を実現することなのであって、戦いによって得られた平和は、一時的な幸福感である。しかも勝者だけの幸福感で、その裏では敗者の恨み、反感という負のエネルギーが蓄積されていって、いつか復讐という形で新たな戦いを生んでしまう、終わりの無い行為であることを彼らは解っていない。
実に薄っぺらな世界である」
お父さんは、わたしの名前を冬子と命名しました。
お母さんには黙っていましたが、冬子は普通の子ではない運命を背負って産まれてきたそうです。
『冬子をしっかりと見守ってやれるのは自分しかいない・・・』と思ったお父さんは偉い神さまに訊ねたそうです。
「冬子に何を求めておられるのでしょうか?わたしがこの15年間してきたことを女の冬子に求められるのは、あまりにも厳し過ぎると思います・・・」
偉い神さまは答えたそうです。
「お前は、まだ男と女は違うものだと思っておるようだ。機能としては違う。しかし同じ人間であることには変わりない。この食い違いが男女間の不幸を齎してきた。よいか、男も女も同じ人間であることを忘れてはならぬ。男女の体の機能の違いを、本質的な違いと決めつけたのは人間そのものだ。人間の本質とは何であるかをよく考えよ。男と女の機能の違いは動物の機能としての違いだけであり、それは他の動物も同じである。人間の本質とは、すべての生命体の先頭をきって進化していく動物で、その進化とは魂の進化のことを言っておる。魂の進化も山と谷を繰り返していくのが、宇宙の法則である。山の進化が男の象徴であり、谷の進化が女の象徴である。この21世紀という時代は谷の進化の時代である。だからこれからは女性という人間が中心的役割を果たしていく時代に入っていく。お前も、もう余命幾ばくもない年令になっておる。21世紀を生き続けることは出来ないであろう・・・」
お父さんは納得せざるを得なかったほど、道理の通った話だったそうです。
「それでは、冬子の指導はわたしがやります!」
お父さんは言いました。
「それは無理な話だ。お前には、何度も言ったように、まだしなければならないことがある。今は、その充電期間であるだけで、また使命を果たす時期がきたら、その使命に専念せざるを得なくなる。そして使命を果たしたら、お前はこの世を去る。その後から冬子の使命が始まる。それを指導するのは、このわしではない。お前の両親が、お前の使命に何ら関わりがなかったのと同じように、冬子の使命は、お前にも、わしにも関わりのないことである。ただ、今お前に言ってやれるのは、鬼神四郎がデビルとなったように、垣内冬子はデビとなる!」
「わたしの名前のデビルは悪魔という意味です。デビも同じ意味なのですか?」
「デビルもデビも悪魔という意味ではない。神性を持った者という意味である!」
そう偉い神様は言ったそうですが、わたしにはよくわかりません。
それから、鬼の掟十七条のことを、お話しなければならないのですが、今日は掟の話をやめて他の話をしましょうね。
だって、みなさんも難しい話は苦手のようで、面白い話、スッとする話、易しい話しか、なかなか理解出来ないと、お父さんから聞いていたので、わたし結構気を遣っているのですよ。
ちょっと難しい話をすると、すぐにみなさん口にチャックをして「沈黙は金なり」の諺通りになってしまわれるようです。
わたしなんか、解らないことがあると、解るまで、お父さんやお母さんに訊くのです。
そして納得すると、頭から胸の辺りが空っぽになって、とても気持ちがいいのです。
そうでないと、頭が変になるぐらい、すっきりしないのです。
雨が降りそうで降らない、どんよりした黒い雲で覆われた空のようで、気がおかしくなります。
みなさんは、よくこんな状態で、何も自分から行動せずに、じっとしていられるものですね。
わたしには信じられません。
お父さんの話だと、そんな大人の人が殆どで、実は、そんな大人が社会を悪くしている一番のゲンキョウだと言っていました。
「ゲンキョウ」って、どう意味かわたしにはわかりません。
ああ、そう言えば、お父さんは、わたしのことを、とても頑固だと言います。
わたしは、自分ではそう思わないのですが、お母さんはこう言いました。
「冬子は頑固だけど、それは人の性格だから仕方ないわね。だけど、お父さんの話だと、世の大人はみんなガンメイだと言ってたわ・・・。だから世の中が一旦悪くなると、なかなか良くならないの。今から20年前の日本は大変な状態で、みんな気持ちが荒んでいたの。それも、結局は、世の大人のガンメイさが原因で、その結果、変な若い子たちがイナゴの大群のように発生した時代だったのよ。その頃の若い子たちはね、もうそれはひどいもので、ルールも平気で破る。大人が叱らない、そしてテレビが若い子たちをチヤホヤするものだから、自分たちが一番偉いと思っていたの。それはもう顔つきもイナゴみたいで、お母さんは高野山の田舎に住んでいたから、何も知らなかったけど、町では、メスのイナゴの大群がオスのイナゴを引き連れて、やりたい放題のことをしてたのよ。それでお父さんが、お仕置きをしなければならなくなったの。頑固な冬子も、そのことを良く理解しておかないと、お父さんが可哀想よ!」
お母さんの話を聞いて、わたしは悲しくて泣きだしてしまいました。
だけど、冬子と同じ女の子がイナゴの大群のようにやりたい放題していたことを聞いて、わたしは許せないと思いました。
お父さん、ガンメイな冬子でごめんなさい。

作者より:
冬子が知らない言葉が二つありました。
ゲンキョウは元凶のことです。
ガンメイは頑迷のことです。