第十話 憂欝な役目【時刻:2023年2月10日午前134分時】

20年前のこの国のひどい状態のことばかりをお話していますが、その時代の真只中に生きておられるみなさんは、それほどピンとこられていないのではないでしょうか?
現状をきっちりと把握できる人間の数は、本当に少ないと、お父さんは言っています。
今、2023年ですが、わたしは、2100年まで生きて、この地球に住む人間をはじめとして、すべての生き物を月に運ぶ役目を持っています。
月は、わたしの魂の故郷だと、お父さんがいつも言います。
だから、こんな役目を背負っているらしいのです。
地球は月4個分の大きさですから、これだけ多くの人間が住むことができるのですが、月ではそうはいきません。
そこで、月へ移住することの出来る人間を−わたしはみんな連れて行ってあげたいのですが−選択しなければいけないのです。
お父さんに、「どうして、人間全部を月に連れて行ってあげることができないの?」と、わたしが訊くと、しばらく黙っていましたが、何か思い詰めるような感じで、喋り始めたのです。
「それを決めたのは、お父さんではなく冬子が決めたんだよ・・・」
そう言うんです。
「そんな、わたしはみんな連れて行ってあげたいと言っているじゃない!」
わたしは反発したのですが、お父さんは微笑ながら、「そのうちに、冬子がもっと大きくなったらわかるから・・・」と言うだけなのです。
『多分、わたしの胸の中で、よく囁きかけてくるテンシのことを、お父さんは言っているんだろうなあ!』
わたしも、うすうす感じていたので、テンシのことになると、お互いに黙ってしまうのです。
テンシのことになると、お父さんとわたしは、父子に変わりはないのですが、鬼神四郎と冬子の関係では済まされないようです。
デビルとデビの関係になってしまうようで、お互いに変なこだわりがあるのです。
人間を全部月に連れて行けないという話でしたが、2100年迄に、わたしが連れて行ける人と、そうでない人を選ばなければならないのです。
それを考えると憂鬱になります。
『人間の役目が、嫌なことをさせられるのだったら、生きている喜びなんてどこにあるの?』
わたしは、最近そんな想いに襲われることが多くなってきたのです。
そんな風になって、人間は大人になって行くのでしょうか?
悲しい気持ちになります。
今日は、とても憂鬱なので、話はこれでやめます。
すみません。