第一話 デビという名前【時刻:2023年1月27日午前1時40分】

わたしの名前はデビです。
お父さんが、わたしにつけた名前は冬子というのですが、わたしはあまりこの名前が好きではありません。
だから、自分でデビと呼ぶことにしました。
わたしには、4歳下の夏子という妹がいて、実はここだけの話ですが、夏子という名前の方が気に入っています。
だけど、かわいい夏子から名前を取るわけにもいかないので、デビで仕方ないと思っています。
お父さんの話だと、わたしには、もう一つ名前があって、テンシというそうで、もう遠い昔から、テンシという名前があったらしいのですが、わたしにはさっぱり分かりません。
お母さんは、京子といいます。
お父さんとお母さんは、とても仲が良くて、いつも一緒に朝の散歩に出かけます。
ある日、『デビも一緒に散歩に行きたい!』とおねだりしてからは、三人一緒に散歩に行くようになりました。
夏子も4歳になって、今年からは四人で一緒に散歩しようと、お父さんが言っています。
わたしは、夏子と一緒に遊びたいのですが、何故か、お母さんがわたしと夏子を離そうとしているような気がして、少し憂鬱になることがあります。
わたしが3歳の時、マイヤーさんという優しいお爺さんのお家に行ったのですが、そこで、わたしは不思議な体験をしたのです。
思い出すと辛くなるのです。
マイヤーさんが、わたし独りだけの時に倒れて、そのまま亡くなられたのです。
芝生の庭で、マイヤーさんと一緒に遊んでいたら、マイヤーさんが、急に倒れて、わたしは何が起こったのかわからず、『マイヤーさん!』と心の中で叫びながら、マイヤーさんの目を無我夢中で、手でそっと押さえたのです。
その瞬間、『テンシよ!テンシよ!そのまま手を、そのひとの顔におくのだ!』
と囁いてくるのです。
そうすると、亡くなられた筈のマイヤーさんの意識が戻って、『ああ、冬子ちゃん、ありがとう!』と言ってくれました。
『ありがとう』という響きが、すごく新鮮で、青い色の声のように感じたのです。
特に『あ』という音が、わたしの胸に、優しく浸かって来て、とても気持ちが、いい。
そうすると、また胸で囁くのです。
『テンシよ!テンシよ!』
わたしは、またマイヤーさんの目にそっと手を置いたら、またマイヤーさん、目を開いて、『ああ、冬子ちゃん、ありがとう』と言ってくれるのです。
とても長い時間のような気がしましたが、その時、お父さんが帰って来ました。
お父さんに抱かれたマイヤーさんは泣いていました。
そしてそのまま、静かに、今度は本当に亡くなられたのです。
わたしは、それからもずっと、『テンシよ!テンシよ!』という胸の囁きが聞こえます。
だけど、お母さんにも、お父さんにも、そのことを話せません。
今、ここで初めて、お話をしているのです。
お父さんの名前は、デビルと言います。
わたしとよく似た名前ですが、わたしは何故お父さんがデビルというのか、よくわかりません。
お母さんは、お父さんのことを、『四郎ちゃん』と呼んでいますから、わたしが冬子という名前と同じように、お父さんは四郎という名前だと思います。
お父さんは、いつもわたしを傍において、何か言いたいようなのですが、わたしがわからないので、いつも溜息をついています。
『何とか、お父さんの気持ちをわかるように、早くなりたい!』
いつも想っているわたしなのです。
明日から、お父さんが教えてくれたことを、わたしなりに理解できたものから、お話してゆきたいと思います。