時刻:2023年2月3日(金曜日)午前0時

わたしの話を聞かれているみなさんの時刻は、2003年2月3日午前0時月曜日ですから、わたしとの間にちょうど20年の時差があります。
わたしが、タイムトンネルに入って、20年早く進んでいるのです。
わたしの年齢は8才になったところですが、実はみなさんが、わたしの話を聞かれる時は、わたしは世には、まだ生まれ出ていないのです。
2003年は、お父さんの話では、この高野山での修行を終えて、世の立て直しを始めた年で、まだ若くて、ひどいお仕置きを平気でしていたようです。
タクシーの運転手にひどいことをしたという理由で、ヤクザさんの手首を噛みちぎったり、悪いことをするヤクザさんを監視、取り締まる役割の警察の偉い人が、もっと悪いことをしていたからといって、その偉い方を噛み殺したり、それはもう、いくら相手が悪いといっても、行き過ぎではないかと思うような、目を覆うばかりの残虐三昧をしていたと言っていました。
「お父さんは、どうしてそんな残虐なことをしたの?お話してあげることは出来なかったの?」
デビが訊くと、「そうだな、今から思えば、あんなひどいことまでする必要はなかったと思うけど、あそこまで徹底する為に高野山で修行し、京子にも出逢うことが出来て、こうやって今、平和に冬子や夏子と一緒に暮らすことも出来ているんだ」
お父さんは、思い出しながら、しんみりと言いました。
その横顔が何となく淋しそうに思えたのです。
昔の若い頃の話をすると、辛そうな顔をするので、もうやめます。
鬼の掟十七条のことを、お話しなければならないのですが、聞かれているみなさんも、休み明けで、気分も憂鬱でしょうから、話をスカッとしたものにと思ったのですが、今度はお父さんを憂鬱にしてしまいました。
やはり、今日は掟の話をやめて他の話をしましょうね。
だって、みなさんも難しい話は苦手のようで、面白い話、スッとする話、易しい話しか、なかなか理解出来ないと、お父さんから聞いていたので、わたし結構気を遣っているのですよ。
ちょっと難しい話をすると、すぐにみなさん口にチャックをして「沈黙は金なり」の諺通りになってしまわれるようです。
わたしなんか、解らないことがあると、解るまで、お父さんやお母さんに訊くのです。
そして納得すると、頭から胸の辺りが空っぽになって、とても気持ちがいいのです。
そうでないと、頭が変になるぐらい、すっきりしないのです。
雨が降りそうで降らない、どんよりした黒い雲で覆われた空のようで、気がおかしくなります。
みなさんは、よくこんな状態で、何も自分から行動せずに、じっとしていられるものですね。
わたしには信じられません。
お父さんの話だと、そんな大人の人が殆どで、実は、そんな大人が社会を悪くしている一番のゲンキョウだと言っていました。
「ゲンキョウ」って、どう意味かわたしにはわかりません。
ああ、そう言えば、お父さんは、わたしのことを、とても頑固だと言います。
わたしは、自分ではそう思わないのですが、お母さんはこう言いました。
「冬子は頑固だけど、それは人の性格だから仕方ないわね。だけど、お父さんの話だと、世の大人はみんなガンメイだと言ってたわ。だから世の中が一旦悪くなると、なかなか良くならないの。今から20年前の日本は大変な状態で、みんな気持ちが荒んでいたの。それも、結局は、世の大人のガンメイさが原因で、その結果、変な若い子たちがイナゴの大群のように発生した時代だったのよ。その頃の若い子たちはね、もうそれはひどいもので、ルールも平気で破る。大人が叱らない、そしてテレビが若い子たちをチヤホヤするものだから、自分たちが一番偉いと思っていたの。それはもう顔つきもイナゴみたいで、お母さんは高野山の田舎に住んでいたから、何も知らなかったけど、町では、メスのイナゴの大群がオスのイナゴを引き連れて、やりたい放題のことをしてたのよ。それでお父さんが、お仕置きをしなければならなくなったの。頑固な冬子も、そのことを良く理解しておかないと、お父さんが可哀想よ」
お母さんの話を聞いて、わたしは悲しくて泣きだしてしまいました。
だけど、冬子と同じ女の子がイナゴの大群のようにやりたい放題していたことを聞いて、わたしは許せないと思いました。
お父さん、ガンメイな冬子でごめんなさい。


作者より:
冬子が知らない言葉が二つありました。
ゲンキョウは元凶のことです。
ガンメイは頑迷のことです。