一通の手紙

一通の手紙

あなたは わたしを怨む
プレイボーイに弄れたと怨む
怨んでも怨んでも忘れられない
一通の手紙にこめた怨みの想い
いくら怨みの言葉を並べても
あなたの想いがわたしに通じる
やっぱりあなたを忘れられないと
わたしは応えた
わたしも同じ
忘れたくても忘れられない
憎くても忘れられないこの想い
それが好きだという徴し(しるし)


それから一週間後、艶子から一通の手紙が届いた。
寮では一切のプライバシーはない。
他人宛ての手紙でも、開封はしないが、差出し人を見て女性だと、みんなで騒ぐ。
「よおお、軍司に川村艶子という女の子から手紙が来ているぞ!」
個人宛てのメールボックスが一応あるのだが、誰も構わず開けるのだ。
大阪の片思いの女の子からの手紙も、軍司は誰にも見せるつもりはなかった。
だが、毎日夜遅くまで起きていて、いろいろな話をする寮だから、自然に自分の好きな女の子の名前もみんなに言ってしまう。
もし、黙っていたら、「水くさい!」ということになって、寮におれなくなる。
これまでにも、自分のプライバシーを大事にしたいと思った寮生が何人も去って行ったことがある。
「おい、軍司が片思いしていた大阪の女の子から手紙が来ているぞ!」
そうすると、みんな集まって来て、「何て書いてあるんや?」と聞かれる。
いちいち説明出来ないから、ついみんなに見せてしまう。
そういう隠し事を出来ないのが軍司の性格で、特に自分にとって大事な人には余計出来ない。
迂闊にも、「自分の手紙、みんなが読んだんや」と言ってしまった。
大阪では、相手のことを「自分」と言う、変な言葉である。
「そんな、人のプライバシーを、ましてや手紙を他人に見せるなんて許されへん!」
彼女に、四ヶ月ぶりに会った淀川の堤で言われた。
その時は大した問題だと思っていなかったが、その後の彼女の変化で、気がついた。
「五年間の熱い想いを伝えたのに、こんなことで冷めるのか?」
軍司は釈然としなかったが、それが若者の持つ残酷さであることに気がつくのは、長い歳月の後だった。
だが川村艶子の手紙だけは、誰にも見せなかった。
「同じ失敗は繰り返さないぞ!」という強い想いがあったからだ。
しかし、手紙の内容は、惨澹たるものだった。
「軍司 様
この一週間、わたしはずっと泣き続けていました。
そして、この手紙を書きながら、わたしは、こんな残酷な彼を好きになった自分を怨みました。
もうお会いいたしません。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・艶子」
手紙を読んだ軍司は、「また誤解された!」と思った。
今までなら放っておくのだが、彼女には誤解されたくないと思った彼は、筆不精なのに、一所懸命自分の本当の想いを綴った。
「艶子 様
あなたの手紙読みました。
怨まれても仕方ありません。
ただ僕の真意だけは伝えておきたいと思って、この手紙を書きました。
以前、お互いに異性でも可能だと思って、相手も承知の上で、友達として付き合おうと言った女性が大阪にいました。
彼女とは二年程付き合いましたが、指一本触れたこともありません。
彼女が短大生の時に、両親の薦めで見合いをしたのです。
そして両親が相手のことを気に入って、卒業後結婚するよう言われたらしいのです。
どうしたらいいのか、僕の意見を聞きたいと相談されました。
好きなら結婚したらいいし、嫌いなら止めたらいい。と答えました。
そうしたら、僕の気持ちを知りたいと言うのです。待っていたら結婚してくれる気持ちがあるかどうかを確かめたかったらしいのです。
普通なら、僕はまだ若いから結婚なんて遠い先のことで考えたこともない。と答えたかも知れません。
ずっと付き合っていても、僕にとっては嫌いじゃないから構わないわけです。
だけど、僕はこう答えました。
君のこと嫌いじゃないけど、結婚する気持ちにはなれない。もし結婚したいと思う相手が今いたら、もちろんすぐにでも結婚するけれどね。
この言葉で、彼女は僕のことをきっぱり諦めて結婚しました。
僕はこれで良かったと思っています。彼女のためにも、僕のためにも。
この前、原宿の教会で、敢えて片思いの女の子のことを話したのは、あなたのことを好きだったからです。
多分、片思いの女の子とは、いずれ駄目になると思いますが、まだ結論が出ていないのです。
結論を出すのは彼女の方ですから、僕には何も出来ないのです。
ただ五年も片思いをしてきた子だし、勇気を奮って告白までして、ここまで来たので、中途半端なことだけは、したくありません。
そこへ、あなたから、僕の方が年上だったら良かったのに、と言われ、はっきりしないまま、あなたを引っ張って置く訳にはいかないと思ったのです。
もし、彼女に決定的にふられたら、僕はあなたのところへ飛んで行くでしょう。しかしそれは卑怯です。
だから敢えて、あんなことを言ったのです。
結局、僕は、あなたも、彼女も両方失うことになるでしょう。
それでも仕方ありません。
僕の今の心情だけは解ってください。軍司」


大人の恋

あなたは わたしを想いやる
わたしも あなたを想いやる
幸せでなくても 
不幸せにはさせたくない
非凡でなくてもいい 
悲劇のヒーローにはさせたくない
平凡であってもいい 
悲劇のヒロインにはさせたくない

若い恋は 燃える恋
燃える炎で 焼き尽くす
灰となった 残り火を
お互い拾わぬ薄情な恋
死ぬ度胸はあっても
生きる勇気はない

大人の恋は 大河の流れ
いくらでも支流をつくり
惜しみなく与える
大河もいずれは出る大海に
出れば あなたも わたしも 何もない
そして またお互いの処へ戻る